ビジネス方法の米国における特許性

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ビジネス方法の米国における特許性


2000年3月9日
RYUKA国際特許事務所

ビジネス方法が特許として認められるためには、発明が、特許の適格性を有すること(発明が特許の対象となるか)、新規性を有すること、進歩性(非自明性)を有することが必要です。なお現在の米国の審査動向を知ることは、将来の日本の審査動向を考える上でも参考になります。

1.特許の適格性(発明が特許の対象となるか)

米国においてビジネス方法が特許の対象として認められるためには、「有用な方法」であることが必要です。さらにコンピュータ関連発明(ビジネス方法のほとんどがコンピュータ(ソフトウエア)を用い、しばしばネットワークを用いる)の有用性は、クレームに記載された発明が「現実的用途」を有するか否かによって判断されます。特に発明の現実的用途が文言上クレームに記載されている 場合は、発明が現実的用途を有すると認められます。

米国特許庁の審査官用のトレーニングマテリアルの基準を参考に、発明が「現実的用途」を有するかどうかの判断基準をわかりやすく説明します。

たとえば、生命保険の保険料を最適設計する新しい計算手法を思いついたとします。

発明を「・・・の情報を入力し、生命保険の保険料を算出する方法」とクレームした場合、この発明は特許の適格性を有しないと判断されます(特許の対象となりません)。なぜなら、クレームの文言上、最適に計算された保険料の「現実的な用途」が記載されていないからです。

しかし、「・・・の情報を入力し、生命保険の最適な保険料を算出し、前記保険料の前記生命保険の契約内容を表示する方法」とクレームすると、特許の適格性を有すると判断されます。なぜなら、表示された保険契約内容を見た保険販売員が、最適な保険料の保険を顧客に販売することができるため、最適な保険料を表示することに現実的価値があると認められるからです。したがって、このクレームされた発明は特許の対象として認められます。

また、「・・・の情報を入力し、生命保険の最適な保険料を算出し、前記保険料に基づいて前記生命保険の契約を顧客と締結する方法」とクレームしても、特許の適格性を有すると判断されます。保険契約という「現実の取引」が記載されているからです。このクレームされた発明も特許の対象となります。

このように、

(1)現実の取引に係わる処理を行う発明、及び

(2)現実的用途のある出力を行う発明

は現実的な用途があると判断されます。(1)の「現実の取引に係わる処理」には、商品、サービス等の売買、契約、申込などの処理が含まれます。(2)の「出力」には、表示や印刷以外にも、データベースへの格納や、ネットワークを経由して他のコンピュータに送信され、そこで次の処理が行われることも含まれます。

したがって、新しい保険料の計算方法を思いついたとき、計算方法だけでは、特許の対象とはなりませんが、計算結果の出力先(計算結果の現実的な用い方)や、計算結果に基づく現実の取引まで、範囲を広げることで特許の対象となりえます。本質的な発明は「保険料の新しい計算方法」にあるのですから、これに現実的な出力先や現実の取引を加えることは決して難しいことではありません。

このように米国では、クレームされた発明の「有用性」で特許適格性が判断されるので、ビジネスモデル特許は米国において成立し易くなっています。人間が一部に介在するような発明でも特許適格性を有するようになってきています。

これに対して、日本では、人為的な取り決めまたは経済法則のみを利用したに過ぎないビジネス方法はそれ自体では「発明」に該当しませんが、ビジネスモデルが全体として自然法則を利用していれば「発明」に該当します。ビジネスモデルがハードウエア資源(コンピュータ、ネットワーク等)を使用したものであれば、自然法則を利用しており、「発明」に該当します。多くのビジネスモデルは、コンピュータと、しばしばネットワーク(インターネット)を利用するものですから、特許の適格性の問題は実質的にはありません。しかし、米国と違って、あくまでもハードウエア資源の使用を要求するため、米国よりもビジネスモデル特許の成立のハードルは高いと考えられます。ところが、最近特許庁は「インターネットなどで流通している音楽・映像のオンライン配信の手法や電子商取引の仕様など独創性のある技術やアイデアに、特許を認める方向で検討に入った。現在、特許権の保護対象は記録媒体に書き込んだプログラムなどの「物」に限定しているが、技術の進展により記録媒体で把握し切れないケースも出ており、特許を広範に認める欧米各国に追随する。」(2000年2月21日)と発表しており、日本の特許庁も米国特許庁の審査基準に追従する可能性が出てきました。

2.新規性と進歩性

1.では、発明が特許の適格性を有するかどうか(特許の対象となるかどうか)という問題を扱いました。発明が特許を取得するためには、発明が特許適格性だけでなく、新規性と進歩性を有することが必要です。新規性と進歩性について留意すべき点を述べます。

多数のクライアントから、「これは新しいビジネスです」、「業界初の試みです」、「ビジネス特許にならないでしょうか」という相談を受けます。業界として初めてであるということと、発明の新規性とは異なります。

発明の特許適格性については、上記のようにクレームの文言を工夫することにより、比較的容易に条件をクリアすることができます。しかし、特許の対象となるからといって、特許を取得できるわけではありません。発明に新規性と進歩性があるかどうかは、そのビジネスモデルが、業界で初めてであるだけでなく、異種業界(他の分野)でも存在しなかった新規なものであるかどうか、他の分野における公知のビジネスモデルを当該分野に適用した、単なる転用にすぎないかどうかを判断しなければなりません。

ビジネスモデル発明の場合、次の2通りがあります。

(1)既知のビジネス方法をシステム化したもの、又は

(2)新規のビジネス方法をシステム化したもの

(1)のように、既に公知のビジネス方法をコンピュータやネットワークを用いて行うだけでは、進歩性がないと判断されます。この場合、公知のビジネス方法をコンピュータ化するにあたって工夫した点(システム構成の工夫、処理手順の工夫等)をクレームすれば、進歩性を持たせることができます。

(2)のように、新規のビジネス方法をコンピュータやネットワークを用いて実現したに過ぎず、システム上の工夫が何もない場合はどうでしょうか?ビジネス方法自体が全く新しく、どの業界を探しても公知文献がない限り、新規性、進歩性で拒絶することができませんから、特許される可能性があります。したがって、ソフトウエア上の工夫や、装置・システム上の工夫が全くなくても、ビジネス方法が新しいというだけで、特許が付与される可能性があります。これが最近、ビジネス特許が騒がれるようになった点です。

このように、発明したビジネスモデルが、他業界も含めてどこにもない、全く新規なものであるとしたら、ソフトウエアやシステムの工夫がなくても、ビジネス方法自体が特許される可能性があります。しかし、このようなケースはまれであり、多くのクライアントが相談を持ち込まれるのは、既知のビジネス方法をシステム化したものである場合がほとんどです。「業界初」であったとしても、他の業界で行っていることであるなら、ビジネス方法自体の新規性はありません。その場合は、システム上の工夫を考えていくことで新規性、進歩性を持たせるようにします。ビジネスモデル特許と言われるものの中には、ビジネス方法自体が新規であるのではなく、ビジネス方法を実現したシステムやソフトウエア上の工夫があるために特許が認められているものも多いのです。

一見して新規性、進歩性がない、単に他の分野でやっていたことを転用しただけ、あるいはこれまで人間がやってきたことをシステム化しただけであったとしても、あきらめるのはまだ早いです。転用の場合でも、適用分野が異なれば、その分野特有の課題があり、その課題を解決するために特定の手段を用いていることがしばしばあります。もしそうなら、そのような課題と解決手段を見つけることで、発明が発掘され、新規性や進歩性を持たせることが可能になります。

3.公知文献を証拠資料として集める

ビジネスモデルは、過去の出願件数が少なく、刊行物に発表されていることも少ないため、特許庁が利用できる公知文献が少ないのが現状です。特許庁は、ビジネス特許出願のクレームの新規性を否定する公知文献が発見できず、出願を拒絶することができないため、結果的にビジネス特許出願は特許される可能性が高くなります。

自社のビジネスを守るためには、ビジネスモデル発明を出願することも重要ですが、自社が既に実施しているビジネスモデルや既知のビジネスモデルが、ある日突然他人の権利とならないように、既知または実施されたビジネスモデルについて、特許庁が利用できる先行技術文献の形にしておくことも大切です。

99年11月29日の米国特許法改正により、「先発明者の防衛-First Inventor Defense」(ビジネス特許の効果的出願日の1年以上前に、その発明の主題を既に実施化し商業利用している者は、そのビジネス特許を侵害していないとされる)を使って、“先使用権”が主張できるようになりました。“先使用権”を主張するには、自社が実施しているビジネスモデルを特定し、実施していることを立証できるように準備しておく必要があります。

社内資料を保存する、作業日誌等の記録を残す、自社のビジネスの方法を刊行物に発表して公知文献にするなど、普段から立証のための記録資料や証拠資料をきちんとファイルするというプラクティスを社内で確立しておくことが大切です。

また、自社が侵害する可能性のある、他社のビジネス発明の出願または特許については、その出願または特許が無効であること(新規性がない等)を証明するため、証拠資料を集め、異議申し立てや無効審判に備えてファイルしておくことも大切です。パンフレットやカタログ(日付が記載されていることが必要)等は、将来失われる可能性が高いため、証拠資料として保管することが必要となります。

4.最後に

ビジネスモデル発明の具体的な案件については、実際に発明の内容を伺いながら、発明となりうるポイントを探すという作業が大切です。尚、ビジネスモデル発明の特許適格性については、龍華他「電子商取引(EC)発明の特許適格性」(「知財管理」1999年8月)に詳しく書きましたのでご笑覧下さい。

 


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