電子商取引(EC)発明の特許適格性

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電子商取引(EC)発明の特許適格性


(「知財管理」99年8月号掲載)
弁理士 龍華 明裕
弁理士 森田 耕司
弁理士 板川起代子

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抄  録 
電子商取引関連の特許が、最近米国で多数登録されている。これは、商取引方法も特許の対象になるとした昨年夏のステートストリートバンク判決②にも沿うものである。またインターネット上の電子商取引で先行する米国においては、電子商取引に積極的に特許を認めることが産業政策上好ましいという背景も働いているように思われる。

 1998年10月に、かかる電子商取引発明等の審査を促進すべく米国特許庁から審査用のトレーニングマテリアルが発行された。そこで、このトレーニングマテリアル③及び最近米国で登録されている電子商取引関連特許を紹介し、電子商取引関連発明の米国特許を取得するための留意事項を考察する。

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①US Statutory Subject Matter of Electric Commerce Invention
Aki Ryuka, Koji Morita, Kiyoko Itagawa
②State Street Bank & Trust Co. v. Signature Financial Group Inc., CAFC 1998年7月 47USPQ2d1596
③トレーニングマテリアル  原文は、http://www.uspto.gov/web/offices/pac/compexam/comguide.htm

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目 次
1.特許適格性判断方法の概要

2.審査官用トレーニングマテリアル

3.電子商取引発明の登録例

4.実務上の対応

 (1)クレームの記載

 (2)明細書(実施形態)の記載

 (3)先行技術の開示(IDS)

 (4)出願時期


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1.特許適格性判断方法の概要
米国特許の対象として認められるためには、対象となる発明が「有用な方法、機械、製造物、又は物質の組成」等であることが必要とされる(米国特許法第 101条④、以下単に101条と呼ぶ。)。従って電子商取引発明が特許の対象として認められる(特許適格性が認められる)為にも、やはりその発明が有用である必要がある。

 米国の特許審査便覧(MPEP)によると、コンピュータ関連発明の有用性は、クレームに記載された発明が「現実的用途」 (Practical Application)を有するか否かによって判断される。⑤コンピュータ外部で物理的変化が生じる場合⑥、又は発明の現実的用途が文言上クレームに記載されている場合は、発明が現実的用途を有すると認められる⑦(MPEP2106)。

 電子商取引発明は、通常コンピュータ外部で物理的変化を生じさせないので、発明の現実的用途を文言上クレームに記載する必要がある。しかしながら、現実的用途がクレームに記載されているか否かを判断することは必ずしも容易でない。トレーニングマテリアルは、この判断を助けることを目的としている。

 但し、実際に特許を取得するためには、発明が、特許適格性(101条)以外に新規性(102条)及び非自明性(103条)を有する必要がある。また、トレーニングマテリアルは、あくまで米国特許庁が作成した資料であり、将来、裁判所が米国特許庁と異なる判断を行う可能性も残されている点に留意する必要がある。

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④ 35USC101  Whoever invents or discovers any new and useful process, machine, manufacture, or composition of matter, or any new and useful improvement thereof, may obtain a patent therefor, subject to the conditions and requirements of this title.
⑤ステートストリートバンク事件でも、クレームが法定の主題に適合するか否かがこの部分で判断された。
⑥例えば、ゴムの加硫装置をコンピュータで制御する方法が該当する(MPEP2106)。 MPEP2106は、従前のコンピュータ関連発明審査ガイドラインをMPEPに折り込んだものであり、101条の要件を判断するための審査方法や各種チェック事項が記載されている。
⑦但し、発明は科学技術的に有用("technologically useful")でなくてはならない(Musgrave, 167USPQ289,  Schrader 30USPQ2d1461でもMusgraveの判断を肯定的に引用している。)。コンピュータ関連発明は科学技術的であるから、現実的な用途を有すれば特許の対象として認められる(MPEP2106ⅡA)。

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2.トレーニングマテリアル
トレーニングマテリアルには、発明の現実的用途がクレームに記載されていると認められるか否かの判断基準を示す5つの仮想的な実例が紹介されている。ここでは、5つの実例中の電子商取引に関連する2つの実例、即ち実例1及び実例5を紹介する⑧。トレーニングマテリアルによると、クレームされた発明が、現実の取引に係わる処理を行う場合、又は有用な出力を行う場合は「現実的用途」が認められる。このため、取引や出力の内容が各クレームにどのように記載されているかに注意して実例を見ると、発明が特許の対象として認められるか否かの判断方法を把握しやすい。

(1)トレーニングマテリアル実例1

 実例1は、ミューチュアル・ファンドに関する。ミューチュアル・ファンド (Mutual Fund)とは投資信託の一形態であり、多数の投資家から集めた資金を株式等に投資する仕組みである。各投資信託が定める運用対象及び運用方針に応じて、投資信託の特性を示すパラメータであるリスクが決まる。リスクの大きい投資信託は、高いリターンを生むことが期待できる反面、リターンがマイナスにもなり得る。

 そこで投資家は、希望するリターンと許容できるリスクとを考えて投資先の投資信託と投資額を決める。実例1は、このような投資を複数の投資信託に対して最適に配分する方法に関する。

 実施形態としては、最適な投資配分を計算し、(1)投資家に投資戦略を単にアドバイスすること、(2)投資アカウントの概要報告に記載する投資戦略のレポートを作ること、及び(3)最適計算結果に従った投資を行うべくシステムを制御して、投資信託を所定の口数、売り買いすることが開示されている。

(1-1)クレーム1(101条拒絶)

 『コンピュータを用いて、ある一つのグループに含まれる複数の投資信託中の一の投資信託へ資金を割り当てる方法であって、

a. 前記複数の投資信託の各々について少なくとも一の信託識別子を受け取り、

b. 前記複数の投資信託の各々について少なくとも一のリスク・ランキング・ファクターを受け取り、

c. 前記リスク・ランキング・ファクターのプロフィールに対応づけられた投資信託の所望の配分に対応する少なくとも一セットの配分パラメーターを受け取り、

d. 前記信託識別子、前記リスク・ランキング・ファクターおよび前記配分パラメータをコンピュータ読取り可能な媒体に記憶し、

e. 前記複数の投資信託に投資する初期投資額を受け取り、

f. 追加投資割当て額とそのための期間を受け取り、

g. 投資リスクの許容レベルの指標を受け取り、

h. 複数の投資信託の間の最適なアカウント配分を設定するため、前記初期投資額、前記追加投資割当て額とそのための期間、および前記投資リスクの許容レベルの指標とともに、記憶された前記信託識別子、前記リスク・ランキング・ファクターおよび前記配分パラメータを用いる方法。』 ⑨

 クレームされた発明は、複数の投資信託へ資金をどのように配分することが最も望ましいかを計算している。しかしながらクレームの文言上、計算された最適配分に基づいて何らかの取引が行われるのでもなく、また最適配分は外部へ出力されてもいない。即ちクレームには、計算された最適配分の現実社会における用途が記載されていない。このためトレーニングマテリアルによると、本クレームは特許の対象として認められない。

(1-2)クレーム2(101条適合)

 『さらに、投資家またはブローカーに対する月次の投資家アカウント概要報告に前記最適なアカウント配分を表示するステップを含むクレーム1に記載の方法。』 ⑩

 本クレームには、最適なアカウント配分を表示するというステップが加えられている。これを見たユーザーは、実際に複数の投資信託への投資の配分を定めることができるので、最適なアカウント配分を表示することには現実的価値が認められる。即ち、本クレームには「現実的用途のある出力」が記載されているので、トレーニングマテリアルによると本クレームは特許の対象として認められる。

(1-3)クレーム3(101条適合)

 『さらに、前記最適なアカウント配分に従って、投資信託のグループ内で資金を移動するステップを含むクレーム1に記載の方法。』 ⑪

 本クレームには、最適に計算されたアカウント配分に従って複数の投資信託間で実際に資金を移すという「現実の取引」が記載されている。従って本クレームには現実的用途が記載されていると認められる。このためトレーニングマテリアルによると、本クレームは特許の対象として認められる。

 

(2)トレーニングマテリアル実例5:

 実例5は、マーケット・セキュリティに関する。マーケット・セキュリティ(Market Securities)は市場で取り引きされる証券であり、具体的には債券や株式が該当する。本実例では、顧客が保有する証券の将来の価値を汎用的なコンピュータにより評価して、将来の価値が高ければその顧客に住宅ローンなどの不動産サービスを提供すべきと判断している。

(2-1)クレーム1(101条拒絶)

 『設定時期に満期を迎える証券の市場価値の指標をリアルタイムで決定するシステムを用いて、不動産サービスを拡張するリスクの大きさを決定する方法であって、

 前記システムは、

a. 特定の証券への投資家の投資に関するデータを受け取る手段と、

b. 前記証券の市場取引に関するデータを受け取る手段と、

c. 受け取った前記市場取引データを評価して、どのデータが所定の価格範囲内にあるかを判断する手段と、

d. 前記所定の価格範囲内にあると判断された市場取引データを選択する手段と、

e. 前記特定の証券への投資家の投資に関するデータおよび前記選択されたデータを評価して、将来のある期間における前記証券の予測価値を決定する手段と、

 を含み、

 このシステムにて不動産サービスを拡張するリスクの大きさを決定する方法は、

f. 前記特定の証券への投資家の投資のデータおよび前記証券の予測価値を評価して、住宅ローンサービスのリスクの大きさを決定し、

g. 関連不動産サービスについてのリスクの大きさを決定するために、前記住宅ローンサービスについて決定されたリスクの大きさを用いる。』 ⑫

 本クレームにはリスクを算出するための様々なステップが記載されているが、算出されたリスクを現実にどの様に用いるかが記載されていない。即ち、クレームされた発明は、不動産サービスを拡張する場合のリスクを数学的に決定する方法についての抽象的な概念(abstract idea)にすぎない。このためトレーニングマテリアルによると本クレームは特許の対象として認められない。

(2-2)クレーム2(101条拒絶)

 『設定時期に満期を迎える証券の市場価値の指標をリアルタイムで決定するシステムを用いて、不動産サービスを拡張するか否かを決定する方法であって、

 前記システムは、a~eの手段を含み、(クレーム1と同一なので記載を省略する)

 前記決定方法は、

f. 前記特定の証券への投資家の投資のデータおよび前記証券の予測価値を評価して、住宅ローンサービスのリスクの大きさを決定し、

g. 前記住宅ローンサービスについて決定されたリスクの大きさを用いて、関連不動産サービスについてのリスクの大きさを決定し、

h. 前記関連不動産サービスについてのリスクの大きさをしきい値と比較し、

i. 前記しきい値との比較結果に基づいて前記関連不動産サービスを拡張するか否かを決定する。』 ⑬

 クレームされた発明は、不動産サービスを拡張するか否かを決定するというコンピュータ内の計算処理で終わっているので、抽象的概念に過ぎず発明の現実的用途が認められない。このため、トレーニングマテリアルによると本クレームは101条により拒絶される。

(2-3)クレーム3(101条拒絶)

 『さらに、前記関連不動産サービスを拡張するかどうかの決定を潜在的な買い手に通知するステップを含むクレーム2に記載の方法。』 ⑭

 本クレームには「不動産サービスを拡張するか否かの決定を顧客に通知する」と記載されているので、一見、現実的用途のある出力が行われているように考えられる。

しかしながらクレームに記載された用語は、詳細な説明を参酌して解釈される。本実例の明細書における詳細な説明には、「通知」の方法として「フォームレター」を作成する事に加え、「他の適当な手段(other appropriate means)」を用いることができると記載されている。

「フォームレター」を作成する事は現実的用途に該当するが、他の適当な手段による出力という広範な表現には現実的用途のない出力が包含される。このため本クレームの「通知」には現実的用途の無い出力が含まれると解釈せざるを得ず、トレーニングマテリアルによると本クレームは特許の対象として認められない。

 

(3)特許適格性の判断についての考察

 トレーニングマテリアルの実例に鑑みると、特許の対象として認められる電子商取引発明の例としては、①現実の取引に係わる処理を行う発明と、②現実的用途のある出力を行う発明の2つが考えられる。

 実例1のクレーム3は、判断結果に基づいて実際に資金を移動しているので上記①に該当する。その他に、例えば所定の判断結果に基く商品の購入、又はサービスの申し込みなどの処理がクレームに記載された発明も、上記①に該当し特許の対象として認められる可能性が高い。

 実例1のクレーム2は、人が理解できる処理結果を出力しているので上記②に該当する。処理結果の出力先としては、利用者以外にも他の情報処理装置などが考えられる。例えば、計算処理結果がネットワークを経由して他のコンピュータへ与えられ、そこで次の処理が行われる場合も、上記②に該当し特許の対象として認められる可能性が高い。


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⑧ トレーニングマテリアルに記載された他の実例
実例2:マトリックス (Matrix)
実例2は行列計算方法に関する。単なる計算方法では現実的用途がなく、101条の要件に適合しないが、例えば宇宙船の軌道計算への適用をクレーム中で限定すれば101条へ適合する。
実例3:ニューラル・ネットワーク (Neural Network)
クレームが、ニューラル・ネットワークをトレイニングするステップを含んでいれば現実的用途が認められるが、単にトレイニングに使えるといった使用目的の表明程度の限定では現実的用途が認められない。
実例4:トリプル・プレシジョン・アリスメティック (Triple Precision Arithmetic)
汎用コンピュータを用いて3倍の精度で計算を行う方法を開示しているが、クレームが単なる数学的アルゴリズムを記載しており、現実的用途が認められない。
⑨実例1 Claim 1
A computerized method of allocating funds for a mutual fund among a plurality of funds in a group, comprising the steps of:
a. receiving at least one fund identifier for each of said plurality of funds;
b. receiving at least one risk ranking factor for each of said plurality of funds;
c. receiving at least one set of allocation parameters which correspond to the desired allocation of funds relative to a profile of said ranking factors;
d. storing the fund identifiers, the risk ranking factors and the allocation parameters on a computer readable medium;
e. receiving an initial investment value which is to be invested in the funds;
f. receiving an incremental investment allotment value and a period for the incremental investment allotment value;
g. receiving an indication of allowable level of investor risk; and
h. using the stored fund identifiers, the risk ranking factors and the allocation parameters in combination with the initial investment value, the incremental investment allotment value, the period for the incremental investment allotment value, and the indication of allowable level of investor risk to provide an optimum account allocation between the funds in the group.
⑩実例1 Claim 2
The method of claim 1, further including the step of displaying the optimum account allocation on an investor monthly account summary report to an investor or broker.
⑪実例1 Claim 3
The method of claim 1, further including the step of transferring funds between the mutual funds in the group according to the optimum account allocation.
⑫実例5 Claim 1
In a system for real time determination of a market indicator for securities which mature within a set time, the system comprising:
a. means for receiving data relating to investor investment in specific securities;
b. means for receiving data relating to market transactions of the securities;
c. means for evaluating the received market transaction data to determine which of the received market transaction data is within a preset range of values;
d. means for selecting the received market transaction data determined to be within the preset range; and
e. means for evaluating the data relating to investor investment in specified securities and the selected data to determine the probable value of the securities for a range of time in the future;
the method of determining the level of risk in extending a real estate service comprising the steps of:
f. evaluating the investor investment in specified securities data and the probable value of the securities to determine the level of risk for a home mortgage service; and
g. using the level of risk determined for the home mortgage service to determine a level of risk for a related real estate service.
⑬実例5 Claim 2
In a system for real time determination of a market indicator for securities which mature within a set time, the system comprising:
a. means for receiving data relating to investor investment in specified securities;
b. means for receiving data relating to market transactions of the securities;
c. means for evaluating the received market transaction data to determine which of the received market transaction data is within a preset range of values;
d. means for selecting the received market transaction data determined to be within the preset range; and
e. means for evaluating the data relating to investor investment in specified securities and the selected data to determine the probable value of the securities for a range of time in the future;
the method of determining whether to extend a real estate service comprising the steps of:
f. evaluating the investor investment in specified securities data and the probable value of the securities to determine the level of risk for a home mortgage service;
g. using the level of risk determined for the home mortgage service to determine a level of risk for a related real estate service;
h. comparing the level of risk for the related real estate service with a threshold value; and
i. determining whether to extend the related real estate service based upon the comparison with the threshold value.
⑭実例5 Claim 3
In the method of claim 2, the further step of notifying a potential buyer of the decision on whether to extend the related real estate service.

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3.電子商取引発明の登録例
近年米国で実際に登録された電子商取引発明を紹介し、各登録例が上記分類①及び②のいずれに該当するかを検討する。但し米国においては、権利を行使しようとした際に特許権が無効となる場合が多い。また審査官によって特許性の判断レベルに相異があるようである。このため、以下の登録例は登録される発明としての基準を示すのではなく、あくまで一つの参考を示すに留まる。

(1)USP 5,794,207

   登録日 1998年8月11日

   出願日 1996年9月4日

A.発明の概要

 買い手主導型の電子商取引に関する発明である。買い手の側から複数の売り手へ商品名・価格等の購入条件が提示され、その条件を受け入れた売り手と買い手の間で売買が行われる。

B.クレーム1

 コンピュータを用いて買い手と複数の売り手の少なくとも一人との間の取引を促進する方法であって、

・オファー価格を含む条件付き購入オファーを前記コンピュータに入力し、

・クレジットカード口座を特定する支払識別であって、前記条件付き購入オファーに関連する支払識別を前記コンピュータに入力し、

・前記支払識別の受取り後に前記条件付き購入オファーを複数の売り手に出力し、

・一の売り手からの前記条件付き購入オファーに応答する受諾を前記コンピュータに入力し、

・その売り手に前記支払識別を用いて支払を行う方法。

C.特許適格性が認められた理由

 クレームの最終ステップに、買い手の口座から売り手に支払を行うという、実際の取引に係わる処理が記載されている。したがってこのクレームは、分類①に属し特許の対象として認められる。

(2)USP 5,866,889

   登録日 1999年2月2日

   出願日 1995年6月7日

A.発明の概要

 コンピュータシステムを用いて、各種の金融サービスを単一の口座で受けられるような銀行口座を開設する方法に関する。

B.クレーム1

 顧客に対して単一統合口座を一回のセッションで開設する方法であって、

・人口統計情報および顧客財務情報を含む顧客プロフィールのデータベースを作成するステップと、

・収集された情報に基づいて要望分析を行うステップと、

・前記単一統合口座の少なくとも一つの構成要素の顧客による選択を受け取るステップと、

・前記要望分析に基づいて顧客に口座を推奨するとともに、選択された前記単一統合口座の少なくとも一つの構成要素に関する情報を顧客に提示するステップと、

・銀行報告の画像を表示するステップと、

・前記単一統合口座の少なくとも一の構成要素の顧客による選択を反映するように前記データベースを更新するステップと、

・銀行報告を表す第2の画像であって、前記顧客による選択を反映するように修正された画像を表示するステップと、

・少なくとも一の登録フォームを印刷するステップと、

 を含む方法。

C.特許適格性が認められた理由

 本発明は、口座開設についての登録フォームをユーザに対して印刷している。このフォームはユーザに対して直接利益を提供するから、現実的用途のある出力に該当する。したがってこの発明は分類②に属し、発明の特許の対象として認められる。

(3)USP 5,715,399

   登録日 1998年2月3日

   出願日 1995年5月30日

A.発明の概要

 クレジットカード番号が伝送中に第三者に知られることを防止するために、クレジットカード番号全体の一部分のみを送信する。

B.クレーム1

 安全性が保障されないネットワークを通じて、商人のデータベースに記憶された顧客のクレジットカード番号を前記商人が顧客に示すことを可能にする方法であって、

・データベースから顧客のクレジットカード番号を検索し、

・クレジットカード番号の一部分であってクレジットカード番号の全体より実質的に小さい一部分を抜き出し、

・前記クレジットカード番号の前記一部分を含むメッセージを作成し、

・安全性が保障されない前記ネットワークを通じて前記メッセージを前記顧客に送信する方法。

C.特許適格性が認められた理由

 クレームの最終ステップで、ネットワークを通じてメッセージを顧客に送信すると記載されている。発明の詳細な説明を参酌すると、「顧客に送信」は顧客の端末装置にメッセージを送信することを意味する。端末装置を介してメッセージを受け取った顧客は、取引の対象となるクレジットカードを知ることができるので、端末装置にメッセージを送信することは現実的用途に相当する。従ってこの発明は分類 ②に属し、特許の対象として認められる。

(4)USP 5,797,127

   登録日 1998年 8月18日

   出願日 1996年12月31日

A.発明の概要

 顧客の希望する航空チケットのオプション、即ち航空チケットを将来に所定の金額で購入する権利の価格を提供する。

B.クレーム4

 CPUと前記CPUに接続されかつオプションの価格を決定するための前記CPUによって実行可能なプログラムが格納されたメモリとを有する中央制御装置と、前記CPUと通信可能な端末とを使用して、航空チケットを購入するためのオプションの価格を決定する方法であって、

 前記端末を介して前記制御装置に出発地条件を入力し、

 前記端末を介して前記制御装置に目的地条件を入力し、

 前記端末を介して前記制御装置に旅行条件を入力し、

 前記CPUに前記プログラムを実行させることにより、前記出発地条件と前記目的地条件と前記旅行条件を満たす航空チケットを特定のチケット価格で未来の期間内に購入する権利を顧客に与えるオプションの価格を計算し、

 前記端末に前記オプション価格を出力する方法。

C.特許適格性が認められた理由

 本件発明において、中央制御装置は、顧客の希望に合う航空チケットのオプションの価格を決定し、その価格を端末に送る。端末側の顧客はオプションの価格に基づいてオプションを買うか否かの判断ができるので、算出した価格を端末に送ることは現実的用途に相当する。したがってこの発明は分類②に属し、特許の対象として認められる。

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4.実務上の対応
(1)クレームの記載

電子商取引発明の多くは、分類①の現実の取引に係わる処理、又は分類②の現実的用途のある出力を行うと考えられる。そこで、これら2つの分類において所望のクレームを記載できるか否かをまず検討する必要がある。ここで権利範囲が必要以上に狭くなることを避ける為に、分類②における出力先としては、ユーザのみでなく端末装置等の他の情報処理装置や記録媒体等をも考慮しておくことが好ましい。

 インターネット上のホストコンピュータなどのように、ネットワークシステム全体の一部の装置のみを運営して電子商取引サービスを提供する場合がある。このような場合は、ネットワークシステム全体のクレームのみでなく、運営する一部の装置を対象とするクレームを記載することが望ましい。競合会社がホストコンピュータのみを運営した場合、ホストコンピュータのクレームを侵害するが、ネットワークシステム全体のクレームを直接的に侵害したことにはならないからである。

 また分類①又は②のいずれにも属さない場合であっても、現実的用途がクレームに記載されていれば特許の対象として認められるので、権利化したい装置の実状によって柔軟にクレームを考察する必要がある。

 今回のトレーニングマテリアルに基づいて考察した場合でもなお、特許の対象となるか否かが不明確なグレーゾーンは残る。そこで実務上は、特許の対象として認められる可能性が十分に高いクレームと、特許の対象として認められない可能性があるものの権利範囲が広いクレームとを順次記載した上で、審査経過を見て権利化の方針を考察することが一層好ましい。

(2)明細書(実施形態)の記載

 分類①のクレームを記載した場合と、分類②のクレームを記載した場合とに分けて、明細書の実施形態を記載する場合の留意事項を考察する。

① 現実の取引に係わる処理を行う発明(分類①)をクレームした場合

この場合は、クレームされた発明が現実の取引に係わる処理を行うことを明確にすることが大切である。これにより、クレームされた発明が現実的用途を有することが明らかになる。

例えば、取引の対象を具体的に実施形態に例示することが好ましい。異なる取引対象に対しても同様の発明を用いることができる場合は、権利範囲が狭く限定されることを防ぐために他の取引対象も例示しておくことが勧められる。更に、取引対象が特定の性質を有する必要が有るか否かを考察し、そのような必要がある場合には、例えば「・・(特定の性質)・・を有する他の対象も本発明により取り引きすることができる。」と記載しておく方法も考えられる。

② 現実的用途がある出力を行う発明(分類②)をクレームした場合

この場合は、クレームに記載された、コンピュータからの出力が現実的用途を有することを明らかにすることが大切である。

コンピュータによる処理結果を人に出力する場合には、ディスプレイへの表示内容の様に、出力される情報の一例を記載することが望ましい。また処理結果を他の情報処理装置に出力する場合には、他の情報処理装置を含めたネットワークシステム全体の説明を記載すると共に、他の情報処理装置に送る情報、及びその情報を使って他の情報処理装置が行う処理の内容を具体的に記載することが好ましい。

 トレーニングマテリアルにおける実例5の実施形態には、クレームに記載した「出力」が「他の適当な手段を用いた出力を含む」と説明されていた。このため実例5のクレーム3には、現実的用途を有さない単なる出力を行う発明が含まれると解釈され、クレームされた発明は特許の対象として認められなかった。

 このような解釈を避けるために、クレームにおける出力に対応する説明としては「他の適当な手段」のような極端に幅広い定義を避け、ある程度具体的な出力の例を示すことが好ましい。実施形態の中でクレームの構成を説明する場合に、慣例的に「(クレームの構成)が他の任意の手段を含む」と記載されている場合が多いので、電子商取引発明においては特に注意を要する。

 そこで例えば「・・(現実的用途)・・が可能な他の出力方法が含まれる」というように、発明にとって必須の機能を、「出力」の定義に盛り込む方法が考えられる。また「(出力)には、・・(例示)・・の他、現実的用途を有する他の出力が含まれる」と記載しておく方法も考えられる。

(3)先行技術の開示(IDS)

 米国では、出願人が知っている文献であって発明に関連性のあるものを特許庁に提出する義務があるが(35CFR1.56)、出願人が積極的に特許調査をすることまでは要求されていない(35CFR1.97(g)、MPEP609)。しかしながら、米国特許庁が金融取引界における従来の全ての取引方法を調査し適切に審査を行うことは困難であると考えられる。このような場合、特許は取得しやすいものの、一旦登録された特許が無効になる可能性が残り権利を行使することが困難になる場合がある。

 そこで、電子商取引関連の発明を米国へ出願する出願人は、自ら適切な先行技術調査を行い、クレームされた発明に関連する文献を幅広く特許庁へ提出しておくことが好ましい。これにより特許権の登録前に十分な審査を受けることができ、権利行使時に無効になりにくい特許、即ち現実に行使しやすい権利を得ることができる。

(4)出願時期

 米国で電子商取引発明の出願ラッシュが生じている現状に鑑みると、できる限り早く出願を終える必要がある。特に、米国で他人が特許権を取得することを防ぐためには、優先権のみで安心せずに早く米国へ出願することが好ましい⑮。

 しかしながら新たな商取引方法を考案する者は、特許明細書に記載すべき取引システムに関する十分な知識を有さない場合も多い。一方で、取引システムの概要が定まるまで待って特許を出願するのでは、権利化が困難になるおそれがある。

 そこでまず、コンピュータを用いた新たな取引の内容が定まった時点で、取引システムのブロック図やフローチャートを立案できる特許部や特許事務所に相談し、最初の出願を終えることが好ましい。新たな取引サービスの内容が定まっていれば、その時点で電子商取引発明のクレームの概要は定まるからである。

 その後にシステムメーカー等がシステムの内部動作を設計した時に新たな発明が生まれた場合は、再度特許を出願することにより、電子商取引発明を包括的に保護することができる。

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⑮日本出願に基づく優先権を主張するのみでは、実際に米国へ出願する前に他人が行った発明が権利化されることを防ぐことはできない。(米国特許法第102条(e)、及び同(g)第1文)。

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おわりに
金融サービスの国際化及び自由化に伴って電子商取引が国際化する21世紀において、日本の関連企業が日本を含めた世界市場で競っていくためには、電子商取引に関する米国の特許実務を把握し、必要な権利を取得しておくことが大切です。

 今この記事を読まれている私達特許関係者が、電子商取引発明の特許に関する情報を関係機関に伝えることにより、産業を守り、新たな電子商取引方法の開発を促進することができます。そのときにこそ、各国企業とのクロスライセンス及びネットワーク化により共栄することのできる社会が近づいてくることと思います。

 本原稿の作成に当たっては、米国Pillsubury Madison & Sutro LLPの弁護士Dale S. Lazar氏、初見通仁氏、並びに弁理士の矢作隆行氏、江上達夫氏、及び加藤政之氏に貴重な情報を頂きました。ここに、心より御礼申し上げます。
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