特許ビジュアライゼーションの進め方

2022.12.09
弁理士・米国弁護士 龍華 明裕

 特許ビジュアライゼーションでは、特許調査により関連する課題や技術を調査し、それを技術者にご説明して議論を重ねることで発明を創出します。特許ビジュアライゼーションは、従来技術リサーチ、ブレインストーミング、先願調査によるクレーム方針立案,及び特許明細書の作成の4ステップで行われます。

1.従来技術リサーチ
 従来技術リサーチは下記の3つを目的とします。

(1)従来の検討水準の把握
 発明の源泉である課題、技術、そして技術の用途は、下記の方向に進歩します。
 ① 課題:一般的な課題の対策から、特殊な状態で生じる課題の対策へ進歩する。
 ② 技術:電圧、電流などの一般的な値を用いる技術から、電圧の変化(微分値)、過去電流の積分値などのように、より珍しい値を用いる技術へと進歩する。
   単一の値や条件による判断から、複数の値や条件を用いる判断へ進歩する。
 ③ 用途:一般的な用途から、特殊な用途へと検討対象が進歩する。

 このように技術の進歩には方向性があるので、従来技術の検討水準を把握することにより「どの程度深く検討をすれば権利化を期待できるか」を推し量ることができます。この感覚を 「特許性の相場観」 と呼んでいます。正しい「特許性の相場観」を持つことは、議論を深めれば特許を得られる発明を選択し、ディスカッションの方向を正しくリードするために決定的に重要です。

  製品やサービスができていても、特許調査をしたことが無く、何を特許化できるか分からない場合は、面談前に弊所で従来の検討水準を調査しておくと、出願すべきポイントを発見しやすくなります。

(2)興味深い発明の抽出
特許明細書には、発明が対象としている製品(用途)、その用途における課題、そして課題を解決する技術が記載されています。これらの課題、技術、または用途の中で、従来はあまり着目されておらず、かつ関連する市場(マーケット)の規模が大きなものを抽出します。抽出した興味深い課題、技術、および用途を技術者に紹介するとブレインストーミングが加速されます。抽出した発明に基づいて所内で予めディスカッションをすることにより、ディスカッションの方向性(仮)も見えてきます。

(3)従来技術の把握
ブレインストーミングで提案された発明を即座にビジュアライズして関連する質問をするためには、弊所の担当者が幅広い関連技術を習得しておく必要があります。従来技術リサーチは、この点でもブレインストーミングの要となります。


2.ブレインストーミング
(1)参加者
貴社からは、テーマに合った発明能力の高い方に参加をお願いします。弊所からは2名以上が参加し①ブレインストーミングの進行と、②発明のまとめを行います。

(2)事前検討
1.の従来技術リサーチで抽出した興味深い課題、技術、および用途を予め発明者にお送り致します。これらに基づいて、事前に発明を検討しておくことをお願いいたします。

(3)ディスカッションの加速
 従来技術リサーチにより発見された興味深い技術、課題、および用途や、ブレインストーミングで提案された技術、および用途を、弊所担当者が説明します。これにより検討中の技術が参加者にシェアされてディスカッションが加速されます。

(4)ブレインストーミングのリード
 弊所では発明の展開方法と質問方法を具体化し、類型化しています。空間拡張法、時間対象拡張法、送受信置き換え法、入出力分離検討法、ファクター探索法、例外処理探索法などの発明展開手法により発明を整理/展開します。また、とても特許が得られそうにない方向へ話題がシフトしそうになった場合には、特許が得られそうな方向へ修正します。

(5)ブレインストーミングの手順
 用途のビジュアライゼーション、その用途における課題のビジュアライゼーション、および課題を解決する手段のビジュアライゼーションの3段階でブレインストーミングを進めます。この3段階を繰り返すことによって技術はスパイラル状に進化します。ブレインストーミングでは、多い場合には10から30ものスパイラルが部分的に重なり合いながら同時並行的に検討されます。これらの検討結果から、一


3.先願調査とクレーム方針の立案
(1)先願調査
 ブレインストーミング直後に発明毎に弊所で簡易な先願調査を行い、先願の抄録とその中で最も近い発明の公開公報を数件印刷します。

(2)クレーム方針案の作成
 (1)の調査結果に基づいて、特許を取得できる可能性のあるクレーム方針案を、発明毎に2~3程度立案し、先行技術の公報と共に納品します。


4.特許明細書の作成
(1)明細書の作成
 貴社が選択された発明について、ブレインストーミング時に行われたディスカッションの内容、先行技術、特許実例、技術雑誌による調査結果等に基づいて、発明の具体的な実施例及び必要な図面を弊所で起案し特許明細書を作成します。
(ブレインストーミングと特許調査結果の「記憶」に頼ってドキュメントを作成しますので、出願品質を高めるために、3のご報告から1週間以内に出願する発明をご指示ください。)

(2)フォローアップミーティング
 先願調査のご報告後に他の発明の形態を補って出願を行いたいと、貴社がお考えになる場合があると思います。この場合には、先願調査のご報告後にフォローアップミーティングを行い、その内容を踏まえて特許明細書を作成いたします。


5.特許ビジュアライゼーションのテーマ選定
 特許ビジュアライゼーションによってポートフォリオを構築すべきテーマ候補を、特許の公開公報を用いて調査することもできます。概要は下記の通りです。

(1)競合会社の動向調査
 貴社が選択した大きな技術分野における、過去1年間の競合会社の特許公開公報を縦覧し、貴社との関係が強い技術または製品を有する競合会社の、注目すべき発明や製品を調査します。

(2)出願の伸びの調査
 (1)で発見された競合会社の技術や製品に関する特許出願が、過去3年間にどのように伸びているかを調査し、これらの出願件数が急に伸び始めていた場合に、特許ビジュアライゼーションを行うべき具体的なテーマ(技術分野、製品またはサービス)としてご提案します。

(3)テーマ及び事例の報告
 (2)で選択したテーマにおける競合会社の発明を、事例として再度選択して(2)のテーマと共にご報告します。

(4)テーマの絞り込み
 ご紹介したテーマをたたき台として、貴社との事前ディスカッションにより、特許ビジュアライゼーションを行うべきテーマを選択します。


6.特許ビジュアライゼーションの費用

  テーマ選定調査           50~80万円
  従来技術リサーチ          40~60万円
  ブレインストーミング(2人参加)   5万円/時間
  先願調査               8万円/件
  クレーム方針の立案          4万円/件
  特許明細書の作成          35~50万円/件

(費用は2022年12月現在)



関連資料(リンクされています)
  ・特許ビジュアライゼーション
  ・特許ビジュアライゼーションのテーマ選定

以上