【背景技術】【発明の効果】【発明が解決しようとする課題】【課題を解決するための手段】の記載について

2021.08.31
弁理士・米国弁護士 龍華 明裕


 弊所では、【背景技術】の欄の記載を最小限にとどめ、【発明が解決しようとする課題】【課題を解決するための手段】【発明の効果】の欄を設けずに、これらの内容を実施形態に記載しています。その理由を以下にご説明いたします。

1.背景技術
 本願を将来に米国へ出願すると、【背景技術】に記載した内容は、原則として権利範囲に含まれないと判断されます。特許請求の範囲に記載された発明は、【背景技術】に記載した内容と異なるものとして記載されているからです。このため【背景技術】を詳細に説明するほど、特許請求の範囲に記載された用語が限定して解釈され、権利範囲が狭まる可能性が高まります。

 実際、訴訟の経験が多い米国の特許事務所は、従来の技術を殆ど記載しません。これに対して日本では「発明の分かりやすさ」を優先していたので、背景技術を図面を使って説明していた場合さえありました。しかし近年では、日本においても背景技術の欄の記載は減少しつつあります。

 弊所でも【背景技術】の欄には最小限の内容を記載し、必要があれば実施形態の中で「・・・とすることもできるが・・・」という形態で従来の技術を記載しています。

2.発明の効果
 【発明の効果】の欄に記載された内容も、同様に権利範囲を狭く解釈させます。【発明の効果】は、特許請求の範囲に記載された発明の効果を意味します。そのため、相手の製品が【発明の効果】の欄に記載された効果を有しない場合、相手の製品が権利範囲に含まれないと解釈される場合が多いのです。例えば東京地裁H10(ワ)30302事件においては、特許請求の範囲にある「下方」という言葉を「発明の効果」を参酌して限定的に解釈しています。

 従来の日本の特許明細書は訴訟に用いられることが少なかったので、特許明細書は分かりやすさを重視して作成されていました。この場合は請求項毎の作用や効果をできるだけ具体的に記載する必要があります。特許庁も公益的な立場からそのような明細書を推奨しています。

 しかし権利行使を重視する米国の法律事務所は、発明の作用または効果を薄く記載します。請求項毎の作用や効果を具体的に記載することは推奨されていません。

3.発明が解決しようとする課題、 課題を解決するための手段
 【発明が解決しようとする課題】及び【課題を解決するための手段】を具体的に記載した場合や、これらの欄に請求項毎の課題や作用を記載した場合にも、権利範囲が限定的に解釈されるおそれが高まります。相手の製品がそのような課題を解決していなければ、相手の製品が権利範囲に含まれないと判断される可能性が高まるからです。例えば大阪地裁H08(ワ)13483事件においては、「自然石」の語を「背景技術」「発明が解決しようとする課題」「課題を解決するための手段」を参酌して限定的に解釈しています。

4.実施形態
 以上の理由から、弊所では【背景技術】の欄の記載を最小限にとどめ、【発明が解決しようとする課題】【課題を解決するための手段】【発明の効果】の欄を設けずに、必要であればこれらの内容を実施形態の欄に記載しています。

 なおこれらの欄の記載を簡略化したり省略しても、実施形態の中で例えば「本発明によれば....という効果が得られる。」と記載すれば、やはり権利範囲が狭く解釈されます。「本発明」とは特許請求の範囲に記載された発明を意味するからです。したがって実施形態の中でも「本発明」という記載をせずに、例えば「本実施形態によれば....という効果が得られる。」と記載しています。

5.その他
 特許明細書は権利行使のみに用いられるものではなく、例えば投資家や営業への説明、発明者や事業部の意識の高揚等に用いられる場合も少なくありません。このような個々の事情により、望ましい明細書の形式は異なります。弊所は、必要に応じてどのようなスタイルの明細書をも作成することができますので、具体的な明細書の使用目的や、それに応じた明細書スタイルについてのご希望がございます場合は、どうぞご相談ください。

以上