【判例シリーズ】最判H17.7.14「eAccess事件」 解説動画

2023.09.25

今回は判例シリーズ第四弾、最判H17.7.14「eAccess事件」(別名「建築一式工事事件」)の解説動画です。
例えば、商標登録出願Xの指定商品がa、bの2つあり、そのうちのaのみ、審査官により、商4条1項11号の拒絶理由(商15条1号)の通知(商15条の2)を受けたとしましょう。
この場合、先ず、意見書(商15条の2)で反論するといった措置も考えられますが、審査官の判断に誤りがなければ、指定商品aを削除し(商68条の40第1項)、指定商品bのみの権利化を目指すのが最も簡単な措置です。
また、aを分割して新たな商標登録出願Yをし(商10条1項)、元の出願Xからaを削除することも考えられます(商68条の40第1項、商施規22条4項で準用する特施規30条)。これは、aについては別途、分割出願Yにおいて争い、元の出願Xの早期権利化を図りたいときに有効な措置です。
では、審決取消訴訟係属中に分割したいといった場合には、どうでしょうか?
出願の分割は、審査、審判、再審、拒絶審決取消訴訟のいずれかに係属している場合に行えるので(商10条1項)、問題なく行えます。
しかし、商68条の40第1項に規定する補正は、審査、審判、再審、異議申立てのいずれかに係属している場合に限り行えるので、審決取消訴訟係属中は行えません。もっとも、分割と同時にする補正は、準特施規30条を根拠に行うことができます。
そこで、審査段階で拒絶理由通知を受けた場合と同様、拒絶理由のある指定商品を分割しても差し支えは無いのかが問題となるのです。
仮に、商標登録出願Xにおいて拒絶理由のある指定商品aを分割するとしましょう。拒絶理由(商4条1項11号、15条1号)があるので、分割してもまた拒絶理由通知を受けるでしょう。原出願からは指定商品のある指定商品aを削除するので(準特施規30条)、拒絶理由がなくなります。
高裁は、これを根拠に出願人(被上告人)側勝訴としました。
しかし、最高裁は、これをひっくりかえしたのです。確かに、Xの拒絶理由はなくなるが、(商68条の40第1項補正と異なり)準特施規30条補正に遡及効はないため、拒絶審決時に遡って解消するわけではないので、拒絶審決は覆らないとして、特許庁(上告人)側の勝訴としました。
この最高裁判例から得られる教訓は、審査・審判では、拒絶理由のある指定商品又は指定役務を分割し、分割に係る指定商品等を原出願から削除することで、原出願の早期権利化を図ることができるけど、審決取消訴訟で同じことをやると、原出願も分割出願も共倒れになるリスクがあるということです。つまり、審決取消訴訟では、拒絶理由のない指定商品等を分割すべきということです。この場合、拒絶理由のある指定商品が残存する原出願は助かりませんが、拒絶理由のない指定商品に係る分割出願は助かります。まさに「身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ」といったところでしょうか。

宮口先生板書:最判H17.7.14「eAccess事件」

引用出典1:平成16(行ヒ)4  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟
平成17年7月14日  最高裁判所第一小法廷  判決  破棄自判  東京高等裁判所

引用出典2:昭和56(行ツ)99  審決取消  商標権  行政訴訟
昭和59年10月23日  最高裁判所第三小法廷  判決  棄却  東京高等裁判所


講義の収録に際し、LEC東京リーガルマインド 新宿エルタワー本校様にご協力をいただきました。