インド特許庁への他国情報の提出

2024.04.10
弁理士・米国弁護士 龍華 明裕


1.外国出願の情報(特許法8条(1)(a)、(1)(b))
 以下の表を含む陳述書(規則12様式3)と、宣誓書を特許庁へ提出します。
 分割出願や継続出願の情報も含める必要があります。

2.外国出願の審査書類 (特許法8条(2))
 ① 要求された書類を提出します。
 通常は下記の書類を提出すれば要求を満たしますが、毎回OAを注意深く読む必要があります。
  ・新規性調査報告、国際調査報告書、国際調査見解書
  ・拒絶理由通知書、拒絶査定、特許査定等のオフィスアクション
  ・登録または拒絶されたクレーム
  ・以上の書類の英訳

 審査官が「主要特許庁」の書類を提出することを要求した場合は、IP5(US, EP, KR, JP, CN)の書類を提出し「他の国の審査書類を希望される場合はご要求ください」と追記することをお勧めします。誠実さを示すことも重要だからです。

 ② 審査書類の英訳
 インド特許庁に提出する書類は英語(またはヒンズー語)である必要があります。しかし翻訳費用は高額なので手元に英訳が無ければ、グローバルドシエによる訳文を提出した上で、”Human translationが必要であれば作成しますのでご指示ください” と追記することをお勧めします。

 ③ 最初のOAで審査書類が要求されていない場合
 2024年改正により、審査官は原則自力検索を行い、必要がある場合のみ出願人に要求することになりましたので、OAで審査書類を要求しないことが多くなると予想されます。今後は要求された場合にのみ提出をすれば足ります。

  ④ 留意点
 他国の出願情報を最後まで提出しなかった場合に、インド特許が取り消された例もあります2。一方で両面印刷された情報の片側のみが提出されていた場合でも、背景事情に鑑みて、欺く意図はなかったとして取り消しを逃れた例もあります3。欺く意図が重要であるコモンローの特徴に鑑みると、手続きの内容だけでなく、手続きの過程が「誠実」であったと立証できることも重要です。このため上記①②の「追記」も,法的な影響を与えます。

以上
(補足)

1.概要
 上記2(2)の代案として、審査開始の少し前にのみForm 3を提出する案を提案するインド事務所もあるが、コスト低減メリットよりリスクのデメリットの方が大きい。
 更に、多数の分割出願又は継続出願が予定されているケースのみで審査開始の少し前にForm 3を提出する方法も考えられるが、2つの方法を使い分ける複雑さにより手続ミスの恐れが高まるというデメリットがある。

2.メリット
 インド出願から「審査開始の少し前」までの間に、海外で平均1.7件以上の分割出願又は継続出願を行うならコストが下がる。

(コスト計算の仮定条件)
①8(1)(a)後「審査開始の少し前」までに海外で行う分割出願又は継続出願の件数: n
②Form 3の提出にかかる費用: 49,000円/回(現地費用+弊所費用。庁費用ゼロ)
③審査開始時期調査及びその期限管理の費用: 3,000円/回
④Form 3の提出までの審査開始時期調査の回数: 3回
⑤期限途過後のForm 3の提出の庁費用: 160 US$ = 18,000円(1 US$ = 112.5円)
⑥期限途過後の提出に対して審査官が追加の書類の提出を求める確率:2割(未調査)
 Rule 138、Rule 137により提出を審査官が求め始めている。
⑦上記⑥に対応するための費用:24,500円(上記提出費用の半額)

(コスト比較)
分割/継続出願ごとに提出する合計費用 >審査開始の少し前に提出する費用 とすると、
49,000 x n>3,000 x 3 + 49,000 + 18,000 + (18,000 + 24,500) x 0.2 = 84,500
   ∴ n> 1.7

3.デメリット
(1)基礎12(2)の期限を意図的に破っているので、万が一提出すべき情報の漏れ等のミスが発覚した場合に、手続きの過程が「誠実」でなかったと認定されるリスクが高まる。
(2)「審査着手の少し前」から「最初の拒絶理由通知」までの間に海外で分割出願又は継続出願を行った場合は、別途Form 3を提出する必要がある。そのため、その間の手続きの管理工数と、情報の提出漏れのリスクが高まる。



1 Order 207 of 2012, VRC Continental vs. Uniroyal Chemical, IPAB(知的財産審判委員会)
 Order 166 of 2012, Tata Chemicals Ltd. Vs. Hindustan Unilever Ltd, IPAB
2 Richter Gedeon vs. Cipla, Indian Patent Office, 2010
 Chemtura vs. Union of India, Delhi High Ct., 2009
3 Koninklijke Philips vs. Sukesh, Delhi High, Ct, 2013