ヒルトンデービス最高裁判決

1997.03.05

- 均等の範囲に対する補正の影響 -
著者: パートナー  G. Paul Edgell
    アソシエイト Kurt W. Lockwood
訳者: 弁理士  龍華 明裕(Ryuka)

 待望のWarner-Jenkinson Co., Inc.対Hilton Davis Chemical Co.判決(No. 95-728, slip op. at 1, 最高裁判所1997年3月3日)において米国最高裁判所は、特許権侵害の問題に均等論を適用できることを全員一致で支持した。Ginsburg判事 および Kennedy判事が同意意見(concurring opinion: 多数意見と結論が同じで推論過程が異なる意見*)を述べた。最高裁判所における裁判の前に連邦巡回裁判所(CAFC)は、均等論の下で侵害を認定した陪審員の評決を支持していた(当所の知的所有権レポート1995年9月号を参照)。適切な均等範囲を明確にするための自己の分析方法に基づいて最高裁判所は連邦巡回裁判所の判決を覆し、最高裁判所の意見に沿って更に審理させるために事件を差し戻した。判決文22ページ。

 上告人は、グレバータンク事件(Graver Tank & Mfg. Co.対Linde Air Products Co. 339 U.S. 605 (1950))において裁判所が述べた均等論は、1952年の特許法改正により廃止されるべきであると主張した。その理由として、(1)特許法112条第2パラグラフによるクレームドラフトの明確さの要求、(2)クレームドラフトにおける誤りを訂正するための特許再発行プロセス、(3)特許手続において特許の範囲を判断する場合の米国特許商標庁(PTO)の優越性、および(4)”means”クレームについて“均等”の概念を112条第6パラグラフで特に導入していることに鑑みて、均等論は改正特許法に矛盾すると主張した。最高裁判所は、Thomas判事が述べた意見の中でこの上告人の議論を退けた。同6ページ。

 クレーム、再発行手続およびPTOの役割に関しては、1952年特許法はそれ以前の1870年特許法と実質的に異ならなく、また1950年のグレバータンク判決は均等論に対する上記議論の3つを既に取り扱い退けたと最高裁判所は判示した。同6、7ページ。上告人の第4の議論に関して、”means”クレームを認めている第112条第6パラグラフは、新規性を有する点の機能的表現が認められなかったHalliburton Oil Well Cementing Co.対Walker判決(329 U.S. 1 、1946年)に対応して議会が制定したものであると最高裁判所は判示した。最高裁判所は、この規定は”means”クレームを認める一方で、文言上の範囲が広い”means”要素の適用範囲を、均等という言葉を有する条文中の文言で予め狭めておくことを意図しているのであって、文言侵害の無い場合に均等論を適用することを除外するものでは無いと理由付けた。同8~9ページ。

 最高裁判所は結論として、「特許法が均等論と矛盾するという見解を最高裁判所がグレバータンク判決で否定したことを、均等論の長い歴史が支持している。」と述べた。同9ページ。均等論と「法定のクレーム記載要求により定義を明確にし第三者に知らしめる機能」との対立を調和させるべく、最高裁判所は均等の範囲を明確にする幾つかの命令を発行した。同9ページ。

第1に最高裁判所は、「発明のある要素を完全に取り除くような幅広い役割」が均等論に認められることが無い様に、均等論は発明全体としてではなくクレームの個々の要素に適用されなければならないと判示した。同10ページ。

 第2に最高裁判所は、補正によってクレーム要素の限定が追加された場合は、その補正を必要とする「特許性に関連する実質的理由をPTOが有していた」という、反駁可能な推定が行われると判示した。特許権者は、クレームの特許性を安全にするということの他に、限定を追加した適切な理由を示して推定を覆す立証責任を有する。特許権者がこの立証責任を満たすことが出来ない場合には、禁反言の原則によって、その要素に均等論を適用することは出来ない。同14ページ。

 第3に最高裁判所は、「均等論の下での侵害を、特許権の文言上の侵害とは異なって取り扱う理由は無い。」と判示した。従って、均等論を適用する客観的なアプローチにおいては、意図は何の役割も有すべきでは無いと判示した。この、均等論の適用には意図の立証が必要とされないという裁判所の判示により、均等論の必須条件としては「衡平法上の境界」が必要とされなくなる。同様に最高裁判所は、特許をコピーまたは設計回避する努力に関連する証拠は、均等の判断の助けにはならないと判示した。しかしながら裁判所は、「独立した実験」の証拠は、あるクレーム要素に代わって用いられた物の置換可能性を当業者が知っていたことまたは知らなかったことの証明となる可能性があると述べた。同16から18ページ。

 第4に最高裁判所は、均等を評価するための適切な時は、「侵害時であり特許が発行された時ではない」と判示した。この判示事項は、均等論は特許明細書に開示されている事項に制限されるべきであるとの主張を間接的に退けたこととなる。同18ページ。

 第5に最高裁判所は、均等を判断する為に用いる「言語の構成」またはテスト方法は、「被偽侵害物または被偽プロセスが、クレームの各構成と同一又は均等の構成を有するか?」という基本的な問題を解かなくてはならないと判示した。最高裁判所は、異なる事件には異なるテスト方法の方がいくぶん適する可能性があり、事件毎に均等のテスト方法を洗練することを連邦巡回裁判所へ委ねることが最良であると述べた。同21~22ページ。

 最後に最高裁判所は、均等は判示に委ねられる法律問題ではなく陪審員に委ねられる事実問題であるという連邦巡回裁判所の判示事項の審査を拒んだ。均等の範囲に関連して提起された本問題を最高裁判所が判決する為には、均等の判断における陪審員の適切な役割を解決する必要は無いと最高裁判所は述べた。最高裁判所は、連邦巡回裁判所の判示事項を支持する判例は多数有り、クレーム解釈に関する最高裁判所による最近のマークマン判決中には、連邦巡回裁判所による結論を異ならせる必要のある事項はないと述べた。同19~20ページ。

 本事件に関し最高裁判所は、均等論下での必要事項を明確にしている自己の判示事項、特に禁反言の原則の適用方法、および補正により追加されたクレーム要素によって発明の範囲を限定した理由の記録が無いことに鑑みて、本事件は連邦巡回裁判所に差し戻し、最高裁判所の見解に従って更に審理すべきであると判示した。同22ページ。

 本判決による事実上の結論として、陪審員裁判において均等論は従来通り陪審員により適用される。また侵害の有無の判断に被偽侵害者の意図は関係しない。また特許発明全体に対する均等ではなく、侵害時における要素毎の均等を判断することに努めるべきである。更に侵害訴訟において特許権者は、「審査中にPTOから要求された補正により加えられたどのようなクレーム要素の限定も特許性に関係するものであり、従って要素の追加により放棄された事項に均等論を適用することの障害になる」という仮定を覆す立証責任を負う。

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*は訳者注