欧州統一特許と、統一裁判所
欧州で統一特許および統一裁判所を導入する協定(UPCA)が来年(6月1日見込み)施行されますので、概要とご提案をお送り致します。
1.統一特許 (Unitary Patent)
含まれる国
EU内の17批准国*をカバーする統一特許が、欧州特許(EP)出願から登録可能になります。ただしEUの非加盟国(イギリス、スイスなど)と、UPCAの非批准国(スペイン、ポーランドなど)はカバーされません。これらの国には、従来通り欧州特許を個別にValidate(登録)する必要があります。
*ドイツ、フランス、イタリア、オーストリア、オランダ、デンマーク、スウィーデン、フィンランド、ベルギー、BG,EE,LV,LT,LU,MT,PT,SI
* 統一特許を登録せずに、批准国へ従来通り個別にValidateすることもできます。
統一特許の登録手続
欧州特許の登録が官報に掲載される日から1月以内に請求を行い、他の一の公用語(ex.ドイツ語)の訳文を提出する必要があります。この訳文は裁判で用いられないので、現地が安価に作成できます。
年金
統一特許の年金を支払うのみで足り、批准国へは支払いません。統一特許の年金は、批准国の4カ国分相当です。EU非加盟国や非批准国でもValidateした場合は、別途、年金支払が必要です。
2.統一裁判所 (UPC: Unified Patent Court)
裁判管轄
統一特許の侵害と有効性はUPCのみで裁判されます。欧州特許が既に又は今後、批准国で個別にValidateされた場合も、UPCは批准国での侵害と有効性を裁判する管轄を有します。このため単一の訴訟で、複数の批准国の特許について判決できます。
UPCのメリットとデメリット
特許権者にとっては、複数の国で訴訟を行うのと比較して訴訟コストが下がると期待できます。欧州特許庁(EPO)は、異議申立後しか欧州特許の有効性を審理できませんが、UPCはその後も特許無効を審理できます。このため単一の判決で、批准国の複数の特許を失う恐れがあります(セントラルアタック)。
UPCへの対応策
そこで施行日から7~14年の移行期間に限り、批准国の特許権者は、UPCの管轄権を排除(オプトアウト)し、従来通り各国の裁判所だけで裁判できることを選択できます。セントラルアタックは新制度の施行と同時に請求され得るので、これを避けるべくUPCA施行前のサンライズ期間(来年3月開始見込)にオプトアウトすることもできます。なお出願中にもオプトアウトできます。また訴訟が批准国内で開始される前であれば、オプトアウトを撤回することも一度だけ可能です。
オプトアウトの要件
(i)すべての特許権者/出願人(譲渡契約済なら譲受者)が同意したこと。
(ii)すべての国に関してオプトアウトすること。
(iii) 申請書に、出願人/特許権者のメールアドレスを記載すること。(オンライン特許原簿で公開されます)
委任状は必要ありません。
オプトアウトの現地代理人費用
事務所により案件ごとに€80~400程度です。庁費用は無料です。
3.ご提案
統一特許を取得すべきか
3~4カ国以上の批准国で特許を取得したく、UPCで裁判することを許容できる場合は、統一特許を考慮すべきです。従来、明細書の訳文を必要とする批准国で登録する場合は、翻訳費用がかかりました。この場合は統一特許の方が、初期費用が下がり得ます。
統一特許を得たいのにUPCA施行前にRule 71(3)の通知(許可通知)を受け取った場合、2023年1月以降であれば、欧州特許の登録を遅らせて統一特許を得ることを請求できます。ドイツの批准まではRule 71(3)の通知に対して(マイナーな)補正を行うことで時間を稼ぐことをお勧めします。
オプトアウトすべきか
UPCで特許無効を争うには、おそらく数百万円以上かかります。このため差し迫った必要性がない限り、特許無効が争われると考えにくいです。例えば、世界のいずれの国でも、関連発明の特許権行使やライセンスを試みたことが無い場合は、重要な基本発明でない限り特許無効が主張される可能性も低いので、急いでオプトアウトする必要はありません。
UPCAが施行されて暫くすると、UPCが特許権者に有利か否かが分かります。UPCを普及させたいというバイアスが働きUPCが特許権者寄りの判断をする可能性もあります。それらの状況を把握するまで待ってオプトアウトを判断することもできます。
権利行使の可能性が高く見える特許の場合
一方で権利行使やライセンスを試みた発明の関連発明や、影響が大きい基本発明には、特許無効が主張される可能性があるのでオプトアウトを検討する意義があります。UPCとEPOとは整合性を図る必要があるので、無効理由としての補正違反やソフトウエア発明の審理でUPCはドイツ裁判所より現EPOに近い厳格な判断をする可能性があります。これらの無効理由に懸念がある場合は、オプトアウトする意義が高まります。
これらの特許は、いったんオプトアウトしておき、必要に応じてオプトアウトを撤回することもできます。
オプトアウトの依頼先
委任状が不要なので、全てのオプトアウトを一つの代理人に任せることをお勧めします。これにより社内コストを下げ数量割引を得やすくなります。この場合も従前の欧州代理人は、その後の手続きを継続することができます。
以上のご提案は一般論に過ぎす、個別の事情によりご提案は異なります。
懸念事項やご不明な点がございましたら、どうぞお気軽にご連絡ください。