特許前に分割出願を残す理由

2023.12.05
弁理士・米国弁護士 龍華 明裕

1.権利回避を防ぐ
特許が取得されると競合会社は特許の回避を試みます。ここで分割出願が残っていると、特許を回避した競合製品を権利範囲に含めるべく請求項を補正できる場合があります。この可能性が高ければ、分割出願を残すことをお勧めします。

2.訴訟とライセンス交渉での立場を強める
特許権侵害訴訟では、被告は通常、自社製品と特許との違いを説明して非侵害を主張します。しかしこの違いを主張するためには、自社製品を説明しなくてはなりません。

バックアップ出願を用意する
ここで特許の分割出願があると、被告が説明した製品を権利範囲に含めるように請求項を補正した追加の特許を得られる場合があります。このおそれがあるので、被告は自社製品と特許との違いを主張・立証しにくくなり、ひいては特許訴訟だけでなく、事前の交渉や特許ライセンスにおいても特許権者の立場を強めることができます。

分割出願の請求項を多様に補正し得る(明細書に多様な形態が記載されている)場合には、現特許が侵害されていない可能性の方が大きい場合ですら、交渉を有利に進め得ます。

ただしこのメリットを活かせるのは、分割出願の請求項を補正できる1.5〜2.5年の期間に限られます。補正の機会を更に長く維持するためには、審査を遅らせ(日本での方法米中欧での方法)分割出願を繰り返す必要があります。

バックアップ出願を用意する国
相手が米国またはドイツでも製品を販売している場合は、米国またはドイツの特許出願の請求項を補正できれば、日本やその他の国の訴訟や交渉でも類似の効果を得られます。米国では高額の損害賠償が認められやすく、またドイツでは差止が認められやすく審査が遅いので、バックアップ出願に適します。

そこで特許が侵害される恐れが高い場合は、一部の重要な国で分割出願を残すことをお勧めします。

3.後続発明をカバーする(RYUKAご提案)
審査で文献が引用されるのと同様に、自社の出願が他社の出願(後願)に引用される場合も頻繁にあります。後願の出願人は、類似した技術を出願したのですから、貴社の競合会社である場合が多いです。

この場合、貴社の出願は競合会社の出願の請求項の少なくとも 1 つの側面を開示しています。そこで、分割出願により下記の対策を採る検討を行うことをお勧め致します。

・競合他社が拒絶された請求項を記載する
これにより、競合他社が取得しようとした特許を貴社が取得することができます。請求項は、その出願人の将来の製品をカバーすることが多いので、出願人(競合会社)に特許権を行使できる可能性も高まります。

・後願の実施例をカバーする請求項を記載する
実施例は、出願人の将来の製品の計画またはアイデアを示します。そこで、競合会社の出願の実施例をカバーする特許を取得できるか検討することをお勧めします。

引用先の数は貴社出願の価値の尺度になるので、特に引用先が多い場合は、まず分割出願を残して上記検討を慎重に行うことをお勧めします。

分割出願を行う国
競合会社が将来にその製品を販売する国で上記対策を行うべきですが、この国の予測には、引用先の発明が出願された国が参考になります。そこで引用先の出願の対応外国出願を調べて、いずれの国で上記対策を採るかを検討することをお勧めします。

後願の検討を行うタイミング
時間の経過と共に引用先が増えるので、分割の最後の機会(特許査定やAllowance時)に検討することをお勧めします。PCT経由で出願を遅らせ、審査も遅らせる(日本での方法米中欧での方法)と、特許査定時等に後願を発見しやすくなります。

ご不明な点がございましたら、どうぞお気軽にご連絡ください。

以上