「個人使用目的」の模倣品輸入も規制対象に
―商標法第2条第7項の新設―

2023.05.11
弁理士・米国弁護士 龍華 明裕

1.商標法改正の内容
 2022年10月1日に施行されている商標法改正により、第2条第7項「この法律において、輸入する行為には、外国にある者が外国から日本国内に他人をして持ち込ませる行為が含まれるものとする」という解釈規定が新設されました。

2.従来の制度と改正の背景
 近年、電子商取引の発展や国際貨物に係る配送料金の低下等により、海外の事業者が、国内の個人に対し、少量の模倣品を郵便等で直接販売し、送付する事例が急増しています。
 この場合において、従来の商標法制度によれば、国内の個人の行為については、「業として」の行為ではないため(商標法第2条第1項第1号及び第2号)、商標権の侵害は成立しません。また、海外の事業者の行為は、「日本への輸入行為」に該当するか否かは明らかでないことから、商標権侵害が認められず、税関において模倣品を没収等することができないことが多く見られます。
 その結果として、模倣品の国内への流入増加に歯止めをかけることができていません。
 欧米の規制状況と比較してみると、EUは欧州連合司法裁判所の司法判断(C-98/13 Blomqvist/ Rolex [6 Feb. 2014])により、EU域外の事業者がEU域内の者に宛てて送付した模倣品について、当該事業者の行為に商標権侵害が成立するものと解釈し、税関差止めの対象とされています。米国においても、米国商標法の規定により、個人的使用目的で輸入される模倣品であっても商標権侵害を構成し、税関差止めの対象とされています。

3.商標法改正の趣旨と効果
 上記の問題意識に基づき、今回の法改正は、外国にある者が、郵送等により、商品等を日本国内に持ち込む行為を商標法における「輸入」行為に含むものと規定することにより、当該行為が事業者により権原なく行われた場合に権利侵害行為となることを明確化することとしました。
 新設条文上の「他人をして持ち込ませる行為」とは、配送業者等の第三者の行為を利用して外国から日本国内に持ち込む行為(例えば、外国の事業者が、通販サイトで受注した商品を購入者に届けるため、郵送等により日本国内に持ち込む場合が該当する。)と解釈されています。
 なお、第三者の行為を利用することなく、自ら携帯品として日本国内に持ち込む行為(ハンドキャリー)は、本改正前から「輸入」行為に該当すると解されており、事業性のある場合には商標権の侵害が成立し得ます。
 また、商標法改正を踏まえて、関税法も改正され、海外の事業者が郵送等により日本国内に持ち込む模倣品が、「輸入してはならない貨物」として、税関の取締りの対象となりました。いずれの改正法も、2022年10月1日に施行されています。

参考:
特許庁「令和3年法律改正(令和3年法律第42号)解説書」
https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/kaisetu/2022/document/2022-42kaisetsu/14.pdf

特許庁「海外からの模倣品流入への規制強化について」
https://www.jpo.go.jp/news/kokusai/mohohin/kisei.html