海外サーバに日本の特許権の効力が及ぶか ―ドワンゴ対FC2事件知財高裁大合議判決―

2023.06.12
弁理士・米国弁護士 龍華 明裕

 動画にユーザのコメントをリアルタイムで表示するFC2のサービスが、ニコニコ動画関連特許(6526304号)を侵害していることを理由にドワンゴが提訴し、知財高等裁判所(知財高裁)は大合議で下記の判決を下しました(令和4年(ネ)第10046号、 2023年5年26日)。

1.サーバーが端末を動作させる行為が、システム(サーバー+端末)の「生産」に該当するか?
 本特許システムは、サーバーと複数のユーザー側の端末から構成され、端末がサーバーにアクセスすると、サーバーと端末が請求項に記載された動作を行います。この時に、サーバーと複数の端末から構成されるシステムが「生産」されたと言えるかが問題となります。

 この点について知財高裁は、端末がサーバーから各ファイルを受信した時点で、サーバーと端末は接続されており、ユーザ端末のブラウザにおいて動画上にコメントをオーバ ーレイ表示させることが可能となるから、本件発明1の全ての構成要件を充足する機能を備えたシステムが新たに作り出されると判断しました。

2.上記サーバーが海外にある場合でも日本の特許権を侵害するか?
(1)判断基準
 FC2のサーバは国外にあるので、日本の特許権が及ぶかが問題となります。知財高裁は、第三者意見募集を行ったうえで下記の様に判断しました。
 当該システムを構成するサーバが国外に存在する場合でも、
  ①当行為の具体的態様
  ②当該システムを構成する各要素のうち国内に存在するものが当該発明において果たす機能・役割
  ③当該システムの利用によって当該発明の効果が得られる場所
  ④その利用が当該発明の特許権者の経済的利益に与える影響
等を総合考慮し、当該行為が我が国の領域内で行われたものとみることができるときは、特許法上の「生産」に該当する。大合議判決は、ルール形成及び高裁レベルでの判断統一のために出されるので、この判断基準は、最高裁で変更をされない限り、今後の実務基準となります。

(2)本件の判断
 上記① 米国に存在するサーバから国内のユーザ端末に各ファイルが送信され、国内のユーザ端末がこれらを受信する。送信及び受信(送受信) は一体として行われ、国内のユーザ端末が各ファイルを受信することによって被告システムが完成することから、上記送受信は国内で行われたものと観念できる。
 上記② 国内に存在するユーザ端末は、本件発明の主要な機能である動画上に表示されるコメント同士が重ならない位置に表示されるようにするために必要とされる判定部の機能と表示位置制御部の機能を果たしている。
 上記③ 被告システムは、ユーザ端末を介して国内から利用することができるものであって、コメントを利用したコミュニケーションにおける娯楽性の向上という本件発明の効果は国内で発現している。
 上記④ 国内における利用は、控訴人が本件発明を国内で利用して得る経済的利益に影響を及ぼし得る。
と認定したうえで、本件生産は我が国の領域内で行われたものとみることができるとして侵害を認めました。

(3)他の判決との比較
 本判決前に知財高裁は、ドワンゴ対FC2のもう一つの判決を行いました(平成30年(ネ)第10077号、 2022年7月20日)(対象特許:4734471、4695583)。この判決では、国外サーバーから日本ユーザーへのプログラム配信が、プログラムの請求項を侵害すると認め、またプログラムは表示装置の生産にのみ用いられるから表示装置の請求項も間接的に侵害すると認めました。ただし表示装置の「生産」には、ユーザーによるプログラム・インストールが必要であり、表示装置を「使用」するのもユーザーであるとして、表示装置の請求項の直接侵害は認められませんでした。

 これと比較して大合議判決は、サーバーが国外にある装置の特許権侵害を、より積極的に認めています。

3.実務上のご提案
(1)端末の権利を積極的に取得する
 本判決ではサーバーと端末から成るシステムが生産されたと認められていますが、同趣旨で端末も生産されたと判断される蓋然性が高いと考えます。このため、端末が汎用のPCや携帯電話に過ぎない場合であっても、特定のサーバーにアクセスしたときに初めて発明を実施するのであれば、まず端末を積極的に権利化することをお勧めいたします。端末の権利があれば上記2の判断を要さないので、権利侵害の主張・立証が、より簡便だからです。

(2)システムの請求項を書く
 端末のみでは進歩性が足りない恐れがあれば、併せて、端末+サーバーのシステムを権利化する必要があります。この際に、サーバーが国外に設けられる恐れがあれば、請求項には、サーバーにアクセスしたことで初めて実現される動作を積極的に記載することをお勧めいたします。国内に存在する端末が果たす機能・役割が小さく、殆どの機能がサーバーで実現される場合には、日本での権利侵害が認められない恐れもあるからです(上記2(1)②)

(3)サーバーと端末の役割分担のバリエーションに留意する
 サーバーと端末の役割分担を変更しても成立する発明が多々あります。本判決を受けて競合会社は、前記役割分担を変更することで権利侵害を避けることを試みるでしょう。このため出願時には、役割分担のバリエーションを広く検討したうえで、それらのバリエーションも抑えられる出願を行う必要があります。


特許第6526304号 本判決の対象の独立項(訂正後)
【請求項1】
 サーバと、これとネットワークを介して接続された複数の端末装置と、を備えるコメント配信システムであって、
 前記サーバは、
    前記サーバから送信された動画を視聴中のユーザから付与された前記動画に対する第1コメント及び第2コメントを受信し、
    前記端末装置に、前記動画と、コメント情報とを送信し、
 前記コメント情報は、
    前記第1コメント及び前記第2コメントと、
    前記第1コメント及び前記第2コメントのそれぞれが付与された時点に対応する、前記動画の最初を基準とした動画の経過時間を表す動画再生時間であるコメント付与時間と、を含み、
 前記動画及び前記コメント情報に基づいて、前記動画と、前記コメント付与時間に対応する動画再生時間において、前記動画の少なくとも一部と重なって、水平方向に移動する前記第1コメント及び前記第2コメントと、を前記端末装置の表示装置に表示させる手段と、
 前記第2コメントを前記1の動画上に表示させる際の表示位置が、前記第1コメントの表示位置と重なるか否かを判定する判定部と、
 重なると判定された場合に、前記第1コメントと前記第2コメントとが重ならない位置
に表示されるよう調整する表示位置制御部と、を備えるコメント配信システムにおいて、
 前記サーバが、前記動画と、前記コメント情報とを前記端末装置に送信することにより、前記端末装置の表示装置には、
    前記動画と、
    前記コメント付与時間に対応する動画再生時間において、前記動画の少なくとも一部と重なって、水平方向に移動する前記第1コメント及び前記第2コメントと、
が前記第1コメントと前記第2コメントとが重ならないように表示される、コメント配信システム。
【請求項2】
 動画配信サーバ及びコメント配信サーバと、これらとネットワークを介して接続された複数の端末装置と、を備えるコメント配信システムであって、
 前記コメント配信サーバは、
    前記動画配信サーバから送信された動画を視聴中のユーザから付与された前記動画に対する第1コメント及び第2コメントを受信し、
    前記端末装置にコメント情報を送信し、
 前記動画配信サーバは、前記端末装置に前記動画を送信し、
 前記コメント情報は、
    前記第1コメント及び前記第2コメントと、
    前記第1コメント及び前記第2コメントのそれぞれが付与された時点に対応する、前記動画の最初を基準とした動画の経過時間を表す動画再生時間であるコメント付与時間と、を含み、
 前記動画及び前記コメント情報に基づいて、前記動画と、前記コメント付与時間に対応する動画再生時間において、前記動画の少なくとも一部と重なって、水平方向に移動する前記第1コメント及び前記第2コメントと、を前記端末装置の表示装置に表示させる手段と、
 前記第2コメントを前記1の動画上に表示させる際の表示位置が、前記第1コメントの表示位置と重なるか否かを判定する判定部と、
 重なると判定された場合に、前記第1コメントと前記第2コメントとが重ならない位置に表示されるよう調整する表示位置制御部と、を備えるコメント配信システムにおいて、
 前記コメント配信サーバが前記コメント情報を、前記動画配信サーバが前記動画を、それぞれ前記端末装置に送信することにより、前記端末装置の表示装置には、
    前記動画と、
    前記コメント付与時間に対応する動画再生時間において、前記動画の少なくとも一部と重なって、水平方向に移動する前記第1コメント及び前記第2コメントと、
が前記第1コメントと前記第2コメントとが重ならないように表示される、コメント配信システム。

特許第4734471 2022年7月20日判決の対象の独立項
【請求項1】
 動画を再生するとともに、前記動画上にコメントを表示する表示装置であって、
 前記コメントと、当該コメントが付与された時点における、動画の最初を基準とした動画の経過時間を表す動画再生時間であるコメント付与時間とを含むコメント情報を記憶するコメント情報記憶部と、
 前記動画を表示する領域である第1の表示欄に当該動画を再生して表示する動画再生部と、
 前記再生される動画の動画再生時間に基づいて、前記コメント情報記憶部に記憶されたコメント情報のうち、前記動画の動画再生時間に対応するコメント付与時間に対応するコメントを前記コメント情報記憶部から読み出し、当該読み出されたコメントを、前記コメントを表示する領域である第2の表示欄に表示するコメント表示部と、を有し、
 前記第2の表示欄のうち、一部の領域が前記第1の表示欄の少なくとも一部と重なっており、他の領域が前記第1の表示欄の外側にあり、
 前記コメント表示部は、前記読み出したコメントの少なくとも一部を、前記第2の表示欄のうち、前記第1の表示欄の外側であって前記第2の表示欄の内側に表示する
 ことを特徴とする表示装置
【請求項9】
 動画を再生するとともに、前記動画上にコメントを表示する表示装置のコンピュータを、
 前記動画を表示する領域である第1の表示欄に当該動画を再生して表示する動画再生手段、
 コメントと、当該コメントが付与された時点における、動画の最初を基準とした動画の経過時間を表す動画再生時間であるコメント付与時間とを含むコメント情報を記憶するコメント情報記憶部に記憶された情報を参照し、前記再生される動画の動画再生時間に基づいて、前記コメント情報記憶部に記憶されたコメント情報のうち、前記動画の動画再生時間に対応するコメント付与時間に対応するコメントをコメント情報記憶部から読み出し、当該読み出されたコメントの一部を、前記コメントを表示する領域であって一部の領域が前記第1の表示欄の少なくとも一部と重なっており他の領域が前記第1の表示欄の外側に
ある第2の表示欄のうち、前記第1の表示欄の外側であって前記第2の表示欄の内側に表示するコメント表示手段、
 として機能させるプログラム

特許第4695583: 2022年7月20日判決の対象の独立項
【請求項1】
 複数の端末装置から送信されるコメント情報を受信して各端末装置へ配信するコメント配信サーバと、前記コメント配信サーバに接続され動画を再生するとともに、前記動画上にコメントを表示する表示装置とを有するコメント表示システムにおける表示装置であって
 コメントと、前記コメントが付与された時点における、前記動画の最初を基準として動画の経過時間を表す動画再生時間をコメント付与時間として前記コメントに対応づけてコメント情報として記憶するコメント情報記憶部と、 
 前記コメント配信サーバが前記端末装置からコメント情報を受信する毎に当該コメント配信サーバから送信されるコメント情報を受信し、前記コメント情報記憶部に記憶する受信部と、
 前記再生される動画の動画再生時間に基づいて、前記コメント情報記憶部に記憶されたコメント情報のうち、前記動画の動画再生時間に対応するコメント付与時間が対応づけられたコメントを前記コメント情報記憶部から読み出し、読み出したコメントを動画上に表示するコメント表示部と、
 前記コメント表示部によって表示されるコメントのうち、第1のコメントと第2のコメントとのうちいずれか一方または両方が移動表示されるコメントであり、前記第1のコメントを動画上に表示させる際の表示位置が、当該第1のコメントよりも先に前記動画上に表示される第2のコメントの表示位置と重なるか否かを判定する判定部と、
 前記判定部がコメントの表示位置が重なると判定した場合に、前記第1のコメントと前記第2のコメント同士が重ならない位置に表示させる表示位置制御部と、
 を有することを特徴する表示装置
【請求項9】
 複数の端末装置から送信されるコメント情報を受信して各端末装置へ配信するコメント配信サーバと、前記コメント配信サーバに接続され動画を再生するとともに、前記動画上にコメントを表示する表示装置とを有するコメント表示システムにおける表示装置であるコンピュータに、
 前記コメント配信サーバが前記端末装置からコメント情報を受信する毎に当該コメント配信サーバから送信されるコメント情報を受信し、コメントと、前記コメントが付与された時点における、前記動画の最初を基準として動画の経過時間を表す動画再生時間をコメント付与時間として前記コメントに対応づけてコメント情報として記憶するコメント情報記憶部に記憶する受信手段、
 前記再生される動画の動画再生時間に基づいて、前記コメント情報記憶部に記憶されたコメント情報のうち、前記動画の動画再生時間に対応するコメント付与時間が対応づけられたコメントをコメント情報から読み出し、読み出したコメントを動画上に表示するコメント表示手段、
 前記表示されるコメントのうち、第1のコメントと第2のコメントとのうちいずれか一方または両方が移動表示されるコメントであり、前記第1のコメントを動画上に表示させる際の表示位置が、当該第1のコメントよりも先に前記動画上に表示される第2のコメントの表示位置と重なるか否かを判定する判定手段、
 前記コメントの表示位置が重なると判定した場合に、前記第1のコメントと前記第2のコメント同士が重ならない位置に表示させる表示位置制御手段、
 として機能させるプログラム