工業製品と設計図面の著作物性

2023.10.20
弁理士・米国弁護士 龍華 明裕

1.工業製品の著作権
(1)著作権法
 著作権法2条2項は「美術の著作物」は美術工芸品を含むと規定しているので、工業製品も「美術の著作物」にあたる可能性があります。そして製品またはその一部が著作物と認めらる場合、それを模倣した製品を製造・販売する行為は、著作権法21条が規定する「複製権」、同26条の2が規定する「譲渡権」等の著作権を侵害します。

 ただし著作物と認められるのは「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」(2条1項2号)だけなので、「創作性」の有無が問題になります。

(2)判例
 工業製品の形態が、製品の機能を発揮するために必然的でない場合には、形態的な特徴に「個性が発揮されて」いるとして創作性が認められた例もあります。
  トリップ・トラップ事件、知財高裁平成27年判決

 しかし工業製品が著作物と認められた例は極めて稀で、殆どの判決で否認されています。
  木目化粧紙事件、東京高裁平成3年判決
  タコの滑り台事件、知財高裁令和3年判決

 形状・色彩・模様の装飾性が少ない製品の場合は、設計者の個性が発揮される余地が少なく創作性が認められ難いので、製品自体の著作権を懸念する必要性は低いです。

2.設計図面の著作権
(1)著作権法
 設計図面は「学術的な性質を有する図面」の著作物(10条1項6号)に該当し得、この場合は、設計図面を複製し、譲渡する行為は、複製権(21条)、譲渡権(26条の2)等の著作権を侵害します。

(2)判例
 「著作物」として保護されるのは「思想又は感情を創作的に表現したもの」(2条1項2号)なので、表現方法に創作性が認められる場合、例えば、色やフォントの装飾が創作的な設計図面や、設計図の右下に書かれた起草者・年月日・名前の書式が創作的である場合は、著作物性が認められ得ます。
  丸棒矯正機設計図事件、大阪地裁平成4年判決
 
 著作物に該当する設計図面をそのまま複製するだけでなく、図面に主要な寸法を加え、または多少の加工を加えた場合でも、創作性のある表現が共通し、既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することができれば著作権侵害になります。
  江差追分事件、最高裁平成13年判決

 しかし図面ルールに従って線図や寸法が記載されているだけであれば、製品自体に著作物性が認められない限り、設計図面にも「思想又は感情の創作的な表現」が含まれないので著作物性が認められません。
  什器設計図の著作物性事件、東京地裁平成9年判決
  装飾窓格子事件、東京地裁平成4年判決

 したがって、通常の製図法により表現されているものであり、線図、寸法、技術要求事項だけが記載され、色やフォントなどの装飾も施されていない図面の場合、創作性が認められる可能性が低いため、図面に著作物性が認められる懸念も小さいです。

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以上