「予測可能 (predictable)」と「証拠 (evidence)」

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「予測可能(predictable)」と「証拠 (evidence)」

KSR後の米国出願の中間対応策
- 最近の判例と審決から考える -

2007年11月9日
龍華国際特許事務所
外国技術部 大庭健二


 2007年4月の米国最高裁KSR事件判決を受け、今年10月10日に特許商標庁は審査基準を発布しました。この概要につきましてはすでにお知らせいた しました「KSR判決を踏まえたアメリカ特許庁の審査ガイドライン・要約」をご参照ください。

 今回のキーワードは「予測可能 (predictable)」です。例えば組み合わせた結果が予測可能であるか、同じ結果を達成するために単に予測可能ないくつかの手段の 選択にすぎない か、といった観点から自明かどうかが判断されることになります。これにより、引例自体に教示 (Teaching)、示唆 (Suggestion)、組み合わせの動機付け (Motivation to combine)のいずれがなくとも(いわゆるTSMテスト)自明であると判断され得ることになりました。

 しかし、だからと言って審査官は何の根拠もなく拒絶できるわけではありません。そこには「証拠 (evidence)」が必要とされていま す。例えば審判において自明を理由とした拒絶査定が覆された理由の75%は、①クレームの構成要件が引例に開示 がない、あるいは②審査官は引例の組み合わせの適切な論拠を示していない、ということです。KSR事件後の審決や判決文中の具体的な理由の中から、今後自 明性拒絶を効果的に反駁する主張の仕方が見えてきます。以下にいくつかをご紹介します。

「引例の中にそのような構造を示している証拠も示唆もない」
Ex Parte Catoh et al, Appeal 20071460, Decided May 29, 2007

「審査官はそれが従来から存在していたことを示す証拠を何ら挙げていない」
Ex Parte Owlett, Appeal 20070644, Decided June 20, 2007

「審査官は、何故引例の開示が組合せられるべきか、その十分な理由も明示的な解析も示していないと結論付ける」
Ex Parte Erkey et al, Appeal 20071375, Decided May 11, 2007

「審査官は、審判請求人(出願人)のクレームを見て後知恵 (hindsight)的発想を通じた“発明”自体を用いる以外に、引例の教示及び示唆を組み合わせる示唆を見出すことはできない」
Ex Parte Crawford et al, Appeal 20062429, Decided May 30, 2007

「自明性拒絶は、推論的見解だけでは支持することはできない。自明という法的結論には何らかの明確な理由付けに支えられていなければならない」
In re Kahn, 441 E 3d 977, 988 (CA Fed. 2006)


 このように、いい加減な言いっぱなしではなく「何らかの根拠・証拠」を挙げなければ自明性拒絶は覆されています。しかし一方で、この「何らかの根拠、証 拠」の中には「当業者の常識 (common sense)」も含まれてしまうようです。以下にその例を挙げます。

「本件において、常識がある当業者は、発明がなされた時点では、この引例を見て合理的に問題解決を図ることはしなかったであろう、と結論付ける。」
Ex Parte Rinkevich et al, Appeal 20071317, decided May 29, 2007

「我々は、常識がある当業者は、発明がなされた時点では、審査官が主張しているような手法で合理的に○○を既存の××に埋め込むということを考えなかった であろう、と結論付ける」
Ex Parte Green, Appeal 20071271, decided June 12, 2007


 以上に列挙した審決と判例から、当初危惧したほどには審査官は無茶な自明性拒絶のゴリ押しはし難い様子も見えてきます。しかし一方で、「常識」という 「証拠」を挙げてくることで、引例を組み合わせた結果は「予測可能であった」とする拒絶理由が想定されます。また、「常識」以外にも、「Official Notice」、「Design Choice」、「Ordinary Ingenuity」という用語に形を変えた「証拠」を使って自明性拒絶の根拠としてくることが予想され、実際に最近の拒絶理由通知書の中ですでにこの用 語を目にする機会が増えてきたように感じます。

 上記のような拒絶を効果的に回避するには、出願人も何らかの「証拠」を挙げて非自明性を反論する必要に迫られています。この点、比較実験や専門家証言、 商業的成功等いわゆる副次的要因 (secondary consideration) を客観的に証明するための宣誓供述書 (Rule 1.132 Declaration or Affidavit) を提出するという方法もあります。しかし、これは権利行使時に不利に働く原因ともなりかねず、また労力や期限、コストの観点から多用できる出願人は限られ るでしょう。従いまして当所としましては、化学関係や薬学関係の発明で以前から通常の手法として提出していた場合を除けば、この方法はあまりお薦めできま せん。それよりも、意見書の中で、具体的に審査官の引例解釈ミスの箇所を指摘したり、インターネットや一般の刊行物の記載等の具体的部分に依拠したりする ことで、正当に「具体的根拠に基づいて」反論していくべきと考えます。その際、対応の日本出願で既に拒絶を受けている場合には、そのときの意見書での反論 が大いに参考になるのではと期待しています。

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