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欧州連合商標(EUTM)の概要

欧州連合(EU)で商標権を取得するためには、各国に出願をする方法と、欧州連合商標(EUTM)を欧州連合知的財産庁(EUIPO)に出願する方法とがあります。各国に出願をした場合、出願をしていない国では第三者が類似する商標を使用または登録することができます。これに対してEUTMを登録すると、欧州連合(EU)の全域で商標を保護することができます*1
ただし英国は欧州連合(EU)から離脱したので、英国へは別途出願する必要があります。

*1後にEU加盟国が増えた場合は、自動的にその加盟国にも保護が及びます。

<登録できる商標>

  • 「文字商標」や「立体商標」等に加え、「音響商標」や「動的商標(動きのある商標)」、「ホログラム(レーザービームでプリントした立体画像)」、「においの商標」等も登録できます。
  • <出願~登録まで>

    出願

    • 「出願日」は、EUIPOが出願(願書)を受理した日となります。
    • 権利範囲をディスクレーム(権利不要求)することができます。明らかに識別力を有さない部分を出願時にディスクレームすることで、拒絶理由通知を受ける可能性を下げることができます。
    • ニース分類による包括見出し(クラスヘディング)を記載しても、包括見出し下の各商品/役務を指定したことにならない(2016年改正)ので注意が必要です。類似範囲を示すサブクラスは設けられていません。
    • 第1言語(EUのいずれかの国の公用語)に加え、第2言語として英・独・仏・伊・スペイン語の1つを選択しなければなりません。

    審査

    • 方式審査と、下記を例とする「絶対的拒絶理由」の審査が行われます。
      • 識別性(識別力)を欠く商標
      • 立体商標の場合は、商品そのものの性質から生じる形状や技術的成果を得るために必要な商品の形状等のみからなる商標
      • 公衆を、たとえば、商品・サービスの性質、品質又は原産地について欺くような商標
    • 絶対的拒絶理由がある場合には、その旨が出願人に通知され、出願人は意見書や補正書で応答・反論することができます。審査官から商標中の識別力を有さない部分についてディスクレームを求められることもあります。
    • 他人の商標との類似(相対的拒絶理由)は、後述の異議が申し立てられた場合にのみ審査されます。

    調査報告

    • EUIPOとEU各国官庁は、出願人が手数料を支払った場合、「先行する同一/類似の商標出願及び登録商標」(先行商標)の有無を調査します。そして、出願人に調査報告(European Union Search Report)を送付するとともに、先行商標の所有者に通知します。
    • 調査報告が送付されてから約1ヶ月で出願が「公告」がされます。
    • また国毎調査報告(National Search Report)を請求するとチェコ、デンマーク、ハンガリー、ルーマニア、スロバキアの5か国で追加の調査が行われます。特定の国、例えばチェコのみの国毎調査報告を請求することはできません。

    異議申立

    • 先行商標の所有者は、後願に対して異議を申し立てることができます。異議を申し立てられる期間は出願の公告から3ヶ月以内です。
    • 異議が申し立てられると、商標の出願人にその旨の通知がされ、2ヶ月のクーリングオフ期間が与えられます。クーリングオフ期間は最大で24ヶ月まで延長できる場合があります。この期間内に当事者で交渉し、和解することもできます。例えば、異議申立人の指定商品と類似する指定商品を削除することと引き換えに異議申立を取り下げてもらうといった方法があります。当事者間で和解が成立すると、異議申立人が納付した手数料は返還されます。
    • クーリングオフ期間に交渉が成立しなかった場合は「相対的拒絶理由」が審査されます。商標と商品又はサービスが先行商標と類似する場合は、登録を受けることができません。

    登録

    • 異議申立がされない場合や、異議申立が認められなかった場合は、商標が登録されます。
    • 商標権の存続期間は「出願」から10年です。なお日本の商標権の存続期間は「登録」から10年です。
    • 更新の申請は、原則として存続期間が満了する月の末日前6ヶ月以内に行う必要があります。登録料もこの期間内に支払わなければなりません。
    • 更新や変更等の手続が一度で済むので、各国で登録をした場合と比較して管理が簡便です。

    後願の排除

    • 後に類似する商標が出願された場合はEUIPOからの通知に応じて異議を申し立てる必要があります。
    • しかし登録から5年を経過しており、かつ過去5年間商標を使用していない場合は、異議を申し立てることができません。
    • このため登録から5年を経過している場合には、使用をしていたことの立証を出願人から求められる場合が多々あります。このため異議申し立て時に、予め使用を立証するか、将来の立証のコストを見込んでおく必要があります。

    <商標登録の取消と無効>

    • 登録後、過去5年間使用されていない商標の登録は、取り消され得ます*2
    • 登録商標の所有者は後願の登録商標を無効とすべき旨の宣言を求めることができます。この宣言は、後願の登録商標が使用されていることを知ってから5年以内に求めなければなりません。

    • *2EU加盟国の1ヶ国で指定商品・サービスについて使用されていれば取消されないと言われています。

    <弊所からの一般的なアドバイス>

    ■EUTM出願の選択

    • EU加盟国のうちの数ヵ国だけを指定して出願することはできません。そのため、拒絶される可能性が高い国を除いて出願するという戦略が採れません。
    • EU加盟国のいずれか1ヶ国ででも拒絶理由がある場合は、商標登録を受けることができません。この場合は各国ごとの出願に切り替えることができますが、新たに現地代理人費用が必要となります。
    • EU加盟国のいずれか1ヶ国の先登録商標権者から、商標登録を無効とすべき旨が求められた場合も、EU加盟国全体で権利が消滅し得ます。
    • したがって、出願前に類似商標を調査しておくことが重要です。

    ■出願時の言語の選択

      異議申し立ては、出願時に選択された第1または第2の言語で行わなくてはなりません。そこで出願時に英語を避けておくと異議申立を受ける可能性が下がります。しかしこの場合は、出願時に英語以外の2つの言語に翻訳をする必要があるので出願費用が上がります。また異議申し立てに英語で応答をできないので応答費用も高くなります。更に異議を申し立てられなかった先登録商標の所有者が、後に無効の宣言を求める可能性も高まります。このため出願時には、概して、第1又は第2の言語として英語を選択しておくことをお勧めいたします。

    ■代理人の選択

      第1又は第2のいずれの言語で異議を申し立てられた場合にも直接に対応をできる代理人又は事務所を選択する必要があります。例えば、スペインの大手事務所の代理人は、通常は英語とスペイン語に対応をできます。

    ■出願前調査と登録後ウォッチサービス

      EUIPOとEU加盟国は、原則として先行商標を調査しません。そこで商標登録が無効となることを回避すべく、出願前に欧州及びEU加盟国各国の商標を調査することをお勧め致します。
      また、登録後も、類似する商標が登録されるのを排除するために後願を定期的に調査することをお勧め致します。

    <参考:EU加盟国>

    • 2021年2月現在、27ヶ国
      ドイツ フランス イタリア  オランダ オーストリア デンマーク スペイン ポルトガル ベルギー ルクセンブルク アイルランド ギリシャ フィンランド スウェーデン キプロス チェコ エストニア ハンガリー ラトビア リトアニア マルタ ポーランド スロバキア  スロベニア ブルガリア ルーマニア クロアチア

      *代表的な非加盟国 : 英国 ノルウェー アイスランド リヒテンシュタイン


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