国際登録出願(マドリットプロトコル)の概要

国際登録出願によって、簡素な手続で、複数の外国で商標登録を受けることができます。
国際登録出願によって最大100ヶ国で商標登録を受けられます(2018年1月現在)。

<登録までの流れ>

A. 出願人

  • 国際登録出願をするには、日本で商標登録出願をしているか、商標登録されている(商標権を取得している)必要があります。
  • 国際登録出願の商標は、日本の商標登録出願又は商標登録と「同じ」でなければなりません。「似ている」商標では認められません。
    したがって、外国で商標権を取得したい商標が日本で出願・登録されている商標とは異なる場合は、外国で商標権を取得したい商標をまず日本で出願する必要があります。
  • 国際登録出願の指定商品/役務は、日本の指定商品/役務と「同じ」か「狭い」範囲でなければなりません。
    例えば、日本の出願で「自転車、バッグ、椅子」を指定している場合には、国際登録出願で例えば「バッグ、椅子」(狭い)を指定できますが、「自転車、計算機」(計算機を追加してしまっている)を指定することはできません。
    なお、保護を希望する外国ごとに指定商品/役務を変えることができます。
  • 出願人は、保護を希望する外国を自由に選べます。
  • 願書(出願書類)は英語で記載します。保護を希望する外国ごとに翻訳する必要はありません。
  • 手数料は、日本の特許庁と国際事務局に支払います。
    日本の特許庁へは、9,000円の特許印紙代が必要です(2011年5月現在)。
    国際事務局へ支払う料金には、基本手数料、付加手数料、追加手数料、個別手数料の4種類があります。基本手数料は必須ですが、他の手数料は国際登録出願の内容や保護を希望する外国によって不要な場合もあります。
    例えば、「フランス(個別手数料不要)」、「ドイツ(個別手数料不要)」、「米国(個別手数料必要)」の3ヶ国での保護を希望し、どの国でも国際分類を4区分として国際登録出願をする場合の費用は、2,157スイスフラン(約24万円/1スイスフラン111円で計算)になります。
  • 原則として、日本の商標登録出願から6ヶ月以内であれば、パリ条約の優先権主張をすることができます。
    パリ条約の優先権を主張すると、日本で商標登録出願をした日を基準として審査がされるので有利です。

B. 日本国特許庁(本国官庁)

  • 原則として、特許庁が国際登録出願を受理した日が「国際登録日」となります。
    国際登録出願の書類を郵送した日ではなく、特許庁が実際に書類を受け取った日が受理日となるので注意が必要です。
  • 特許庁は、国際登録出願の記載事項と日本の商標登録出願又は商標登録の記載事項とが一致しているか否かなどを審査(方式審査)します。

C. 国際事務局

  • 国際事務局は、国際登録出願の方式について審査し、方式に不備がなければ国際登録簿に商標を「国際登録」します。
    なお、この「国際登録」によって保護を希望した外国で商標が登録されたことにはなりません。あくまで、出願された商標などの内容が国際登録簿に登録されたということを意味します。
  • 国際登録された商標は「国際公表」されます。
  • 国際事務局は、国際登録について出願人が保護を希望した外国の官庁に通報し、その旨を本国官庁(日本国特許庁)と出願人に知らせます。

D. 指定国官庁

  • 各指定国官庁(出願人が保護を希望した外国の特許庁)は、それぞれ商標登録を認めてよいかを審査します。
  • 指定国の官庁は、国際登録出願の商標の保護を認めない場合には、国際事務局から通報があった日から18ヶ月以内に、出願人に対し「拒絶の通報」(国際登録出願の商標を保護できない旨の通知)をします。
    18か月の国: 米国、EM、中国、韓国、オーストラリア、シンガポール、タイ、インドネシア、カンボジア、フィリピン、インドカナダ等(2019年6月現在)
  • 指定国の官庁が、「拒絶の通報」期間(12ヶ月又は18ヶ月)内に「拒絶の通報」をしない場合には、国際登録日からその商標がその指定国の官庁に登録されていた場合と同じ効果を得られます。
    したがって、その指定国での登録の効果が商標権の発生であれば、国際登録日から商標権による保護を受けられます。登録になった場合、原則指定国の官庁から出願人に対して「保護の声明」が発行されます。
  • 「拒絶の通報」に対して意見書や補正書で応答・反論する場合には、多くの場合、現地代理人を通じて行う必要があり、現地代理人費用がかかります。
    「拒絶の通報」に対して意見書や補正書で応答・反論しないと、その外国では商標の保護が受けられないことになります(「拒絶査定」となります)。

<商標権の存続期間(商標権が有効な期間)>

国際登録日から10年間です。この期間は、商標が複数の国で保護されている場合でも一括して、かつ何度でも更新することができます。
なお、商標権は保護を希望した国ごとに発生します。

<特徴的な制度>

●セントラルアタック

 日本の出願が拒絶され、又は日本の商標登録が国際登録の日から5年以内に消滅した場合は、国際登録が取り消され、保護を希望した外国での保護も受けられなくなります。
この場合は、各国ごとの出願に切り替えることができますが、新たに現地代理人費用が必要となります。
なお、日本の商標登録が消滅してしまっても、それが国際登録の日から5年を過ぎてからであれば、保護を希望した外国での保護はなくなりません。

●事後指定

国際登録出願が国際登録された後でも保護を希望する国を追加することがでます。
保護を希望する国の追加は、国際登録出願をした際には商標の使用を予定していなかった国や新規にマドリッドプロトコルに加盟した国で商標権が必要になった場合に有効です。

<国際登録出願をする場合の注意点とアドバイス>

国際登録出願をする場合は、以下に挙げるメリット・デメリットを十分に考慮して行うことをおすすめします。
特に、上記で説明した「セントラルアタック」のリスクには注意しなければなりません。
日本での商標登録出願を利用して国際登録出願をする場合には、日本の商標登録出願が拒絶されてしまうことがあります。
そこで、審査動向をうかがいながら、優先権を主張できる、日本の商標登録出願の日から6ヶ月近くは国際登録出願をするのを待ち、できれば日本の商標登録出願について「登録査定」(商標登録を認める旨の審査官の判断)がされてから、国際登録出願をするのが賢明です。

メリット

  • 費用の節減
    出願人が保護を希望した外国から「拒絶の通報」を受けなければ、現地代理人を通す必要がないので、各国ごとに直接出願する場合よりも費用が安くなります。
  • 手続の簡素化
    日本の特許庁への一度の手続(一通の願書)で、保護を希望する外国へ同時に出願することができます。
    また、どの外国を希望する場合でも、英語で出願できます。
    そのため、当所費用(日本の特許事務所の費用)が、複数の外国へ直接出願した場合に比べて安価になります。
  • 審査が迅速
    出願人が保護を希望した外国の官庁は、保護を認めない場合は「拒絶の通報」をしますが、国際事務局からの通報があってから最大18ヶ月以内にしなければならないルールになっています。したがって、商標権を取得できるか否かが早期にわかります。
  • 権利管理の簡便化(一元管理)
    商標登録後の商標権の更新や名義変更等の手続を日本の特許庁でまとめてできます。

デメリット

  • セントラルアタック
    日本の出願が拒絶され、又は日本の商標登録が国際登録の日から5年以内に消滅した場合は、国際登録が取り消され、保護を希望した外国での保護も受けられなくなります。
    この場合は、各国ごとの出願に切り替えることができますが、新たに現地代理人費用が必要となります。
  • 制約条件
    日本の出願又は商標登録と「同じ」商標でなければ国際登録出願はできません。
    また、国際登録出願の指定商品/役務は、日本の指定商品/役務と「同じ」か「狭い」範囲でなければなりません。
  • 中国独特の問題
    国際商標登録後に類似商標が誤登録されることがあります。これを防ぐには中国で出願をするか、類似商標が登録されるのを監視し誤登録に対して異議を申て立る必要があります。
  • 米国のみの指定
    米国では高い確率で拒絶理由通知が出されます。

マドリッドプロトコルの加盟国(2019年12月:122か国)

先進国および出願件数の多い殆どの国が加盟しています。
未加入の国は、台湾、香港、マカオ、アルゼンチンなどです。

【参考文献】
特許庁HP

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