欧州特許の出願公開による仮保護の権利
1.権利の内容
欧州特許出願が公開されると、実施料相当額を請求する権利 (EPC67条(2)) の他に、下記の強力な仮保護の権利が得られます。
(1)仏国
特許権と同一の権利が認められ、侵害の証拠保全手続を請求することもできます。但し、クレームが公開時と異なっている場合はこの限りではありません。仮保護の権利に基づく訴は原則として特許権が認められるまで中止されますが、中間判決による救済が認められる場合があります(March 1, 1994 Cour de Cassation、 MIP December 1994 / January 1995)。
(2)英国
損害賠償、または侵害がなければ得られたであろう利益を補償する請求が認められます。但し、特許が認められた後でなければ請求をすることができません。また公開時のクレームが特許権されたことが条件とされます。
2.クレームの翻訳文
独国と仏国では、クレームの翻訳文が提出され、それが公衆に利用可能になった時または発明を実施している者に送達された時から仮保護が有効になります。
3.権利行使による得失
クレームの翻訳文を提出すると第三者が異議を申立てやすくなります。特に、異議申立期間の終了前に仮保護の権利を主張した場合には、相手が異議を申し立てる可能性が大きくなります。このため仮保護を得る為にクレームの翻訳文を提出することはあまりありません。
但し、権利が設定登録されるまで放置すると大きな不利益が生じる場合には、特許出願人の強い意志を早期に侵害者に知らせておく必要があります。このような、強い意志の表明手段として仮保護の権利を活用するという方法が考えられます。特に、仏国の仮保護の権利は強いので、クレームされた発明がフランスで既に実施されている場合には、クレームの仏語翻訳文の提出を検討する必要があります。
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