EP出願ではなくドイツ出願を行う4つの理由

2022.12.09
弁理士・米国弁護士 龍華 明裕

1.権利化を遅らせることができる
(1)審査請求期間が長い


 例えば、競合会社による発明の実施形態が分からない場合は、ドイツでは審査請求および権利化を遅らせ、競合会社の実施形態を確認してからクレームを補正することができます。ただしドイツでは審査も遅いので、逆に権利化を急ぐ場合は別途対策が必要です。

(2)先に実用新案を登録できる
 ドイツでは、特許と実用新案とで同一の発明を権利化できます(日本では特許法39条違反です)。このためドイツでは、先に実用新案を登録し、その後に7年の審査請求期間を活かして競合会社の実施形態を確認してから、ゆっくりと特許を得ることができます。EPでも、親出願を先に登録し、分割出願によって権利化を遅らせることができますが、ドイツと比較して高額です。

2.ドイツ語翻訳を考慮しても費用が安い
 以下に大きな相違点を記載します。共通する費用は省略しています。

 ただし国際段階でEPO(欧州特許庁)の国際調査を受けた場合は、その後EPOで補充調査が行われず、権利化が早くなるので出願維持年金も1年分(主に5年次分)削減されます。更にEPOの国際調査報告に基づいて国内移行時に自発補正を行うと、EPOではその後のオフィスアクションが1回減るので欧州代理人の費用が削減されます。これらの場合は費用の差が€3,500~€4,500小さくなりますが、平均的にはなおEPO経由の方が高額です。

 国際段階で更にEPOに予備審査請求すると、欧州代理人を介さずに審査を進めることができます。この場合はEPO経由の方が安価になります(別途、説明資料あり)。

3.補正の自由度が高い
 EPOでは下記の補正が困難ですが、ドイツでは容易です。
  - 独立項に記載された特徴の一部を削除する補正
  - 複数の請求項の新たな組合せへの補正
  - 下位の請求項や実施形態に記載された特徴の一部のみを請求項に加える補正

 ただし国際出願時に、特許請求の範囲に記載した特徴とその他の補正候補となる特徴を、一般的開示:General Disclosure(日本の「課題を解決するための手段」に相当する個所)に列記しておくことによって、EPOでも補正をできる範囲が少し広がります。

4.欧州でドイツ以外の特許を使うことが少ない
(1)権利行使しやすい
 ドイツの訴訟は、他のEP各国の訴訟より特許権者に有利で、例えば、特許は有効であると想定され、差し止めが執行されるまでの期間が短いです。このため欧州の特許訴訟の7割がドイツで提訴されています。
(2)効果が十分
 ドイツと、ドイツ以外の国とで製品の仕様を変えると製造および流通に不利なので、ドイツで特許を抑えられると事実上、欧州全域で特許発明を使えなくなる場合が多いです。このためドイツ特許は事実上、欧州特許として機能する場合が多々あります。

注意点
 ①欧州のドイツ以外の国で製品が製造されて世界に販売される場合や、②発明が魅力的でドイツ以外の欧州だけでも事業が成り立つ場合は、ドイツ以外の国でも権利化する必要があります。この場合に代理人費用を考えると、2ヵ国に出願をするよりEP出願で上記2ただし書きの対応策を執る方が安価です。

 ①②に該当しない場合や、国際出願時に上記2、3の対応策を採らなかった場合は、概して欧州出願よりドイツ出願をお勧めしいたします。