A文献と、シリーズ出願への引用文献を 米国でIDS提出する必要性

2021.11.05
弁理士・米国弁護士 龍華 明裕

調査報告のA文献
 調査報告におけるA文献(特許性に影響を与えないが関連する背景技術を示す文献)は、実際に特許性に影響を与えない場合が多く、その場合はIDS提出する必要がありません。しかしA文献は、明細書に記載された発明を開示する場合が多いので、明細書の記載で請求項を減縮すると、同じ文献が特許性に影響を与える場合があります。

明細書の共通部分が多いシリーズ出願への引用文献
 対応外国出願の審査で引用された文献だけでなく、明細書中の新規性のある説明が一部重複する「シリーズ出願」で引用された文献も、(補正後の)本願の特許性に影響する場合があます。

問題点
 特許性に影響を与える文献はIDS提出する義務があり、義務を怠ると全請求項が権利行使できなくなります。しかし米国出願の請求項を補正する都度、過去のA文献やシリーズ出願の全引用文献を検討し、IDS提出の要否を検討すると却って費用が高くなります。

ご提案
 各文献が、将来の補正後に本願の特許性に影響することは予想をできないので、一流の米国法律事務所が米国企業を代理する場合は、A文献とシリーズ出願の全ての引用文献をIDS提出します。弊所も同じ実務をご推薦します。

 ご不明な点がございましたら、どうぞご連絡ください。



補足:A文献がX,Y文献として再引用されるリスク

 補正後にA文献がX, Y文献(新規性または進歩性に影響する文献)として再度引用される場合があります。この場合は、手続きの誤りによりフロードとなる恐れもあります。

米国特許法施行規則
 IDSには以下の書類または費用を添える必要があります(37 CFR 1.97(b)(c)(d))
 (1) ファイナルオフィスアクションまたは許可通知発行前
   提出文献が「first cited」であるとのステートメント、又は庁費用
 (2) 許可通知発行後、登録料納付前
   上記ステートメント、及び庁費用

A文献をIDS提出しないリスク
 A文献が再度X, Y文献として引用されたときには「first cited」でないので、上記ステートメントを提出できません。このため:
 (1) の時期では、庁費用を納付する必要があり、
 (2) の時期では、RCEする必要があります。

 同文献を誤って「first cited」と宣言して提出すると,その宣言がフロード(fraud、審査官に対する詐欺)と判断され、権利行使できなくなる恐れがあります。このためA文献を提出しない場合は、文献を提出する毎に、その文献が既にA文献としていずれかの国でciteされていたか調べる必要があります。