「物を生産する方法」と「単純方法」の区別

2021.10.29
弁理士・米国弁護士 龍華 明裕
弁理士 藤島 直己

1.概要
 「物を生産する方法の発明」の特許権は、その方法により生産した物に及びます(特許法2条3項、68条)。海外で生産された物を日本に輸入し、販売する行為にも特許権の効力が及ぶ点で、「物を生産する方法」の発明は単純生産方法の発明より魅力的です1。しかし請求項の末尾を「生産方法」とすれば「物を生産する方法の発明」と解釈されるとは限りません。以下の点に留意することが大切です。
 1.当該方法が、何を生産する方法であるかを、請求項中で明確にする。
 2.上記生産物は独立して取引の対象となり得る物とする。
 3.上記生産物に加工が施されることが明確となる程度に、当該方法の処理工程を請求項に記載する。

2.詳細
(1)マンホール枠を含む舗装の切削オーバーレイ工法に関する発明について裁判所は、「本件発明は、「マンホール枠を含む舗装の切削オーバーレイ工法」という「工法」の発明であって、経時的に工程を表し、生産物を伴わず、目的物に変化を生じさせることを目的とするものではないと認められるから、物を生産する方法の発明には該当しないというべきである。」と判断しました2

(2)シンクキャビネット・ガスキャビネットの点検口の蓋の取付方法に関する発明について裁判所は、「物を生産する方法の発明において、生産される物、すなわち製造、組立、加工などの対象とされる物は、少なくとも、譲渡又は輸入の対象となり得るような独立性のある物でなければならないというべきである。」とした上で、「本件方法発明を使用して点検口に蓋が取り付けられたとしても、蓋の取り付けられた点検口は、シンクキャビネット・ガスキャビネットの背面の一部分をなすにすぎず、譲渡又は輸入の対象となり得るような独立性のある物であるとは認められない。したがって、本件方法発明は、物を生産する方法の発明ではないというべきである。」と判断しました3

(3)特定の化学物質(APM)の工業的晶析法に関する発明について、裁判所は、「「物を生産する」行為というためには、原料や材料等の出発物質に何らかの手段を講じて、その化学的、物理的な性質、形状等を変化させて、新たな物を得ることが必要であるのはいうまでもないが、その目的物質は、出発物質と比較して、社会、経済的観点に照らして、前者が新たな価値を伴った物であることも必要であるというべきである。」とした上で、「本件発明1におけるAPMの水性溶液からAPMの結晶を得る行為は、前述した原料、材料に何らかの変更を加えることによって、取引の対象たるに値する物を作出する行為であるといえるから、物の生産行為に該当すると解すべきである。」と判断しました4

3.請求項作成上の留意点
 上記2(1)を考慮すると、まず、請求された方法で生産するものが何であるかを明確にする必要があります。例えば、請求項の末尾を「○○を製造する方法。」と記載することが勧められます。
更に2(2)を考慮すると、上記の○○は、物品の表面などの一部分ではなく、独立して取り引される物の全体であることが好ましいと考えられます。
また2(3)を考慮すると、製造される物品に加工を施す工程が、請求項に含まれる必要があります。例えば請求項に、測定や試験のみでなく、それらの結果に基づいて加工を施す工程まで含めることが推奨されます。
また、請求された生産方法を直接実施せず、生産された物を輸入・販売等する者に対しても権利行使をすることができるので、流通する製品から生産方法を推定できるように請求項を記載することが望ましいです。

 生産物や、生産物への加工工程を請求項に含めると、権利範囲が減縮され過ぎるおそれがある場合には、それらの限定を加えていない請求項の他に、これらの限定を加えた請求項を、別途作成することをお勧めします。

 ご不明な点がございましたら、どうぞご連絡下さい。


1 平成15年(ワ)第14687号(平成16年5月28日東京地方裁判所)
   昭和45年(ワ)第7935号(昭和46年11月26日東京地方裁判所)
2 平成16年(ネ)第4518号(平成17年2月24日東京高等裁判所)
3 平成15年(ワ)第860号(平成16年4月27日大阪地方裁判所)
4 平成13年(ワ)第3764号(平成15年11月26日東京地方裁判所)