請求項に数値範囲の限定を含める場合の留意事項

2022.03.24
弁理士・米国弁護士 龍華 明裕
弁理士 小磯 奈祐

 数値範囲の限定によって拒絶理由を解消するためには、以下の要件を満たす必要があります。

補正要件(特許法17条の2、3項、審査基準IV部2章3.3.1(3))
 補正後の数値範囲が当初明細書に記載された数値範囲に含まれており、かつ補正後の境界値が、
 (i) 発明の詳細な説明に、境界値として明示的に記載されているか、または
 (ii) 課題、効果等の記載から境界値として記載されていると認められること。

 明細書に数値範囲が記載されてないパラメータの数値範囲を、実施例を根拠に限定すると新規事項の拒絶理由を受けるリスクがあります。

 例えば成分Aが、実施例1,2、3にそれぞれ10wt%、20wt%、30wt%と記載されているものの、取り得る数値範囲や好ましい数値範囲が記載されていないとします。この場合に「成分Aを10から30wt%含む」とする補正は、明細書に上限と下限を限定する思想が記載されていないとして新規事項とされるおそれがあります。一方、明細書の記載から10wt%、30wt%に連続的な数値範囲における境界としての意義があると認められれば新規事項ではないと反論できます。

進歩性要件(特許法29条2項、審査基準III部2章4節6.2)
 限定された数値範囲で得られる効果が
 (i) その数値範囲で常に得られ、
 (ii) 引用発明が有する効果とは異質か、または
   同種だが数値限定の内外で効果の相違が量的に顕著であり(臨界的意義)かつ
 (iii) 出願時の技術水準から当業者が予測できないこと。

 出願後に実験データを提出して数値範囲の効果を補足説明することで拒絶理由の解消に寄与し得ます。しかし明細書に何ら記載されていない効果を実験データで説明しても進歩性に寄与しません。

サポート要件(特許法36条6項1号)
 請求項に記載された数値範囲で常に好ましい効果を得られることが、明細書から理解できること。

 一部の範囲で好ましい効果を得られても、他の範囲で同様の効果を得られることを理解できなければサポート要件に違反します(審査基準II部2章2節2.2(3))。意見書で主張した効果が、数値範囲内の一部で得られるか不明な場合は、進歩性違反およびサポート要件違反の拒絶査定が通知されます。

 他の範囲でも効果を得られるか否かではなく、そのような効果が得られることを明細書から理解できるか否かが問題なので、出願後に実験データを提出してもサポート要件違反は解消しません(審査基準II部2章2節3.2.1)。

 ご不明な点がございましたら、どうぞお気軽にご連絡ください。

以上