米国の譲渡証への署名

2021.05.25
弁理士・米国弁護士 龍華 明裕

発明者からの譲渡証については、①特許庁で認められるか、②裁判での反証に耐えられるか の2点に分けて検討する必要があります。

特許庁で認められるか
米国特許庁は譲渡証の内容を厳しく審査しません。このため例えば、譲渡証に自筆サインせずに/ryuka/とタイプしただけの簡単なサインでも認められます。

裁判での反証に耐えられるか
例えば次の場合に問題が生じます
発明者が競合会社に転職して類似する研究開発を続け、類似する発明を出願した。しかし代理人が請求範囲を広げたので元の会社で出願済みの内容をも包含した。この問題はよく生じます。

タイプ型のサイン
上記の場面で元の会社が「この発明は弊社に既に譲渡されている」と主張すると、発明者が「私は元の会社への譲渡証に(タイプ型の)サインをした覚えが無い」と反論する恐れがあります。これに対して、発明者とのメール交信記録があれば、発明者の反論に勝てる場合が多いと思います。しかし交信記録も無ければ負ける可能性が濃くなります。実際には例えば,メールを交信した担当者による証言や、発明者の管理者が提出する宣誓書など、多様な証拠を総合的に判断して勝敗が決まります。

職務発明
職務発明を会社に譲渡するとの契約があった場合は、その発明が職務発明であるか否かが問題になります。そこで「この発明は職務発明です」との合意書に署名してもらうこともできますが、発明の譲渡証に署名をしてもらう方が簡便です。従って職務発明の譲渡契約は、会社の主張を補強する手段に過ぎないとご理解ください。

ご提案
米国以外の考慮
上記の裁判での問題は米国以外でも生じ得ます。そこで世界各国での紛争にも使えるように、全世界で特許を受ける権利と、基礎の日本出願と、PCT等が出願済であればPCT出願等を会社に譲渡する旨を、米国の譲渡証に併せて記載しておくことをお勧めいたします。

なお基礎出願時に同様の契約を作っている場合でも、米国出願時までに明細書に加筆される可能性があり、かつ米国の譲渡証のひな型を修正しておけば、署名時には追加工数が生じないので、やはり同様の内容は含めておくべきです。

タイプ型のサイン
タイプ型のサインに対しては、米国でも反論が容易です。またタイプ型のサインを認めていない国もあります1。そこで少なくとも重要な発明では、自筆の署名を得ることをお勧め致します。

Witnessの追記
更に、発明者が「これは私のサインでない」と主張することに対抗すべく、極めて重要な発明においては発明者がサインするところを見た第三者にwitness(目撃者)としてサインを加えてもらうことをお勧めします。

原本の保管
米国では一般に、コピーが原本と同じ証拠力を有します。しかし米国特許庁に提出した譲渡証を他国の裁判でも提出する可能性を考慮すると,出願人は自筆サイン後の譲渡証の原本を保管しておくべきです。米国特許庁には、メールでお送りいただいたコピーを提出することをお勧めいたします。

ご不明な点等ございましたらご遠慮なくお問合せ下さい。

以上

1 譲渡証に「本譲渡証は米国法の下で署名された」と記載すると、形式的にはタイプ型のサインが他国で有効になり得ます。しかし証拠としての信憑性が低いので,やはり自筆の署名を得ることをお勧めします。本質的に、第三者がタイプ型のサインを真似ることは簡単で、本人の署名と見分けがつかないからです。