PCTから米国への移行手続

2021.09.08
弁理士・米国弁護士 龍華 明裕


PCT出願を米国の国内審査へ移行する手続きには下記の2つの方法があります。

国内移行
 他国への国内移行と同様の手続きです。米国へ国内移行するときには、下記の補正を行うことをお勧めします。
 ① 多数従属項からシングル従属項への書き換え (注1)
 ② Summary of the Inventionの削除
     欧州では補正の根拠になりますが米国では不要であり、一方で権利を狭めます。
 ③ 翻訳時に発見されたより適切な表現への修正、および誤記の修正
 ④ Means Plus Function クレームに対応する構造クレームの追加
     これにより、より広い権利を得ることができます。
 ⑤ 国際調査報告で発見された先行技術を考慮した最低限の減縮
     これにより、無駄なOAを避けることができます。

 これらを補正書で行うと追加費用(現地事務所を介する場合は8~15万円程度。現地事務所を介さない直接出願の場合は2~4万円)が発生します。

継続出願(バイパス出願)
 国内移行に代えて、上記補正後の内容でPCT出願に基づく継続出願(continuation application)を出願することもできます。

① 国内移行と比較したメリット
  正確な翻訳文と補正書とを別々に作成する必要が無いので弊所費用が下がります。継続出願では、分かりにくい文章や誤記も修正しながら翻訳することができます。
  先の出願に開示されていない事項を書き加えた「一部継続出願」とすることもできます。但し新たに書き加えた事項を含む発明は「一部継続出願」の日に出願したとして扱われ、優先権も働きませんのでご留意ください。

② 国内移行と比較したデメリット
  継続出願では米国法に基づいて、一方で国内移行では特許協力条約に基づいて、発明の単一性(リストリクションの要否)が判断されます。このため例えば、物クレームと方法/使用クレームとの間でリストリクション指令を受ける可能性は高くなります。

  継続出願でリストリクションを受ける可能性が大きい場合を除き、弊所では弊所費用を下げるべく継続出願をお勧めしています。そこで、国内移行によって米国へ移行することをご希望の場合はご指示ください。特にご指示がなければ継続出願によって米国へ出願いたします。

 ご不明な点がございましたら、お気軽に龍華(info@ryuka.com)または弊所パートナへご連絡ください。


(注1)
マルチ従属クレームが一つでもあればUS$820が加算されます。またマルチ従属クレームは、従属先の数の請求項としてカウントされます。例えば請求項1-10に従属する従属項は10項とカウントされます。そこで出願時には従属項を最上位の従属先にのみ従属させ、審査結果に応じて請求項を削除するときに、これに代えて従属先が異なる請求項を追加すると庁費用が下がります。なお中小企業の費用は半額です。(費用は2021/9/8日現在)

更に米国では、日本と比較して訂正審判(reexamination/reissue)に長い時間と多額のコストがかかります。このため無効理由のない権利を予め取得することが重視されます。ここで多数項に従属する請求項は、権利範囲が広い分無効にもなりやすいので、各従属先に従属する複数の従属項を記載することが推奨されます。このように従属先ごとに従属項を分けると日本では庁費用が増加しますが米国では減少します。