特許の戦略的活用
目 次
1.代表的な特許事件
2.特許調査と設計変更
3.権利化すべき発明
4.特許マーケティング(コストから利益へ)
(1)特許権の3つの目的(使い方)
(2)特許マーケティングの方向を定める
(3)商品マーケティングとの比較
5.特許権出願の準備
6.図書紹介
1.代表的な特許事件
1-1 失敗事例
(1)ミノルタ対ハネウエル事件
ハネウエル: 以前カメラを製造していたが、訴訟当時は既に作っていない。
陪審員裁判と演出
賠償額: $1億3000万
当初のハネウエルの姿勢とミノルタの対応
(2)ポラロイド対コダック事件
判決 損害賠償命令(賠償額 $8億7000万)+差し止め命令
事業からの撤退
製品の交換 推定損害額 $20億
(3)アップル対マイクロソフト
著作権では 表現 が保護されるが、Look & Feel は保護されない。
特許は取得されていなかった。
権利化のための工夫を要するが、権利化は不可能ではない。
1-2 特許による成功事例
(1)トヨタ自動車 豊田佐吉さんの取得件数 119件
特に自動織機の特許
(2)松下電器産業 松下幸之助さんの取得件数 約100件
2灯用ランプソケット、自転車用ランプ等
(3)ソニー 井深 大さんの取得件数 103件
走るネオン
(4)ホンダ 本田 宗一郎さんの取得件数 474件
(5)米IBMの技術収支 6億ドル/年
米国で記録媒体特許の保護を認めさせ、日本、韓国へ波及
(6)日立の技術収支 400億円/年
(7)キャノン
(8)TI
キルビー特許:ライセンス料金800億円/年(新聞の推計)
(9)日立対モトローラ事件
モトローラが日立のCPU、H8およびH16に対して訴えたのに対して、
日立はモトローラのCPU、68000を特許権侵害であるとして訴えた。
双方共に侵害 → 68000の販売量の方が多かったためモトローラに不利
→ クロスライセンスに至った(実質的勝利)。
2.特許調査と設計変更
失敗する可能性を下げ成功する可能性を高める
(1)2つの調査方法
イ. 会社名による特許調査(相手が分かっているとき)と、
ロ. 技術キーワードによる特許調査(相手を探す。既知の相手の特許をしぼる)
(2)調査結果の開発者への回覧
侵害するおそれがある場合の対応
イ. 特許部へ連絡する。 米国:弁護士の鑑定を得る→3倍賠償を避ける。
ロ. 設計変更
ハ. 訴訟の準備 (無効資料/対抗特許出願)
(3)特許の回覧による付随効果
業界の動向を知る 何を開発 何を権利化 ← 会社名調査
技術を習得する
何が特許となるかを知る 添付資料:シティバンクの例
3.権利化すべき発明
(1)自社の技術
法則1.技術の単純さは特許の価値に比例する。
例1:使い捨てカメラ: 裏蓋部分。シャッター部分
例2:間欠ワイパー: カーンズ氏 $2200万
例3:日清食品: カップヌードル
ソフトウエア発明の留意事項
イ. 見える部分を守る
ロ. 不変の部分を抽出する
ex .ウインドウ表示の場合:
ハ. 早い出願(特に米国)
ニ. 提案書作成日の立証(ラボノートでなくても立証は可能)
(2)製品(サービス)競合対策
自社の技術を競合会社がどの様に利用するかを考察する。
(3)特許競合会社が必要とする技術
訴えられた時の反撃&クロスライセンスのため(個人に対しては有効でない)
(4)製品競合会社と特許競合会社の相違点
製品競合会社と特許競合会社でもある場合が多いが、
製品競合会社のみが特許競合会社であるとは限らない。
特許上は、むしろ小さい競合会社に注意する必要がある。
4.特許マーケティング(コストからプロフィットへ)
日本は世界1の出願大国(60万件/年) cf.米国40万件/年
商品としての特許権と、ビジネスとしての権利行使。
(1)特許権の3つの使い方(権利を得る目的)
イ. 競合会社の排除
自社利益が大きく、自社特許が強い 場合に適する
ロ. 利益を上げる
他社利益が大きく、自社特許が強い 場合に適する
ハ. クロスライセンス
自社利益が大きく、他社特許が強い部分と
他社利益が大きく、自社特許が強い部分がある 場合に適する
目的は1つとは限らない。 特許請求の範囲(クレーム)は目的 & 相手ごとに作る。
(2)特許の取得方法は目的により異なる
イ. 自社の製品を守ることを目的とする場合
守る技術:自社が使う技術と、その置換技術
出願国 :自社が販売する国と、他社が製品を作る国
権利行使の代表例: 差止
従って特許の権利範囲が広いことが大切。
cf.デッドコピーの防止権利範囲は狭くて良い。著作権も有効。
著作権侵害を証明するための工夫も大切
交換部品用特許:必ずその構成が必要であれば、権利範囲は狭くても有効
ロ. クロスライセンスを目的とする場合
守る技術: 特許競合会社が使う可能性が高い技術と、その置換技術
必ずしも自社が使う技術である必要はない
出願国 : 特許競合会社が製品を製造、使用、又は販売している国
権利評価方法:米国では 各特許のライセンス料
日本では 特許件数の場合も多い(差止を意識しているから)
従って米国では 各特許のライセンス料が大切、
日本では 件数も大切な場合が多い。
日本の将来動向: 損害賠償引き上げ→ライセンス料Up→特許使用目的変化
→ 従って今から出願の内容を変える必要がある
富士通 「有効特許」を分類
リコー 経常利益の10%を特許収入に
NEC 3年後の技術収支目標 100億円/年
トヨタ自動車 今後は権利を正当に評価し、行使する。
ハ. 利益を上げることを目的とする場合
守る技術:他社が使う技術と、その置換技術
出願国 :他社の利益が大きくライセンス料率が大きい国→米国
米国における平均ライセンス料率 約10%
米国における、特許権者に有利な2つの制度
(1)Discovery (2)陪審員制度
日米間の文化の相違(?)と、ゲームの理論
→ スピード違反や駐車違反が多いのはなぜか
→ 特許権も無視される場合が有る。
権利行使の代表例:ライセンス(将来の実施)と 損害賠償(過去の実施)
発明の金銭的価値:侵害前初期コスト価値、ロット価値
ライセンス料:販売数 x 単価 x 料率(利益率等による)
従って特許権はカバーする製品の販売総額が大きいことが大切。
→より多く売れる製品、より高い製品、より利益率が高い製品
例:CD-ROM 対 システム、 特定システム 対 汎用システム
(3)特許マーケットの分析
発明が対象とする製品と特許のマーケットを分析し、特許権の目的を明確にする。
次に代表的な相手を想定する。 → 複数でも可。
イ.a 競合会社を排除するための特許出願
ロ. 利益を上げるための特許出願
ハ. クロスライセンスのための特許出願
イ.b 防御
有利な鑑定書を得ておく。 設計変更。
相手の特許を無効とするための資料を集める。
ライセンスを受ける(事業提携、権利を買う等を含む)。
他社を、国毎、相手毎に図面にプロットする。
自社を、国毎、大まかな技術分野毎に図面にプロットする。
特許は、自社が相手をカバーする(であろう)権利と、
他社が自社をカバーする(であろう)権利のみを対象とする。
注意:自社の製品を守る発明は危険領域に対してあまり有効でない。
→ ハ又はイbの対応が必要。
(4)商品マーケティングとの比較
イ. 共通点
マーケットの大きさ、成長率の分析
マーケットの利益率、将来利益率の予測
自己マーケットにおける相手の強さの分析
販売(権利取得)すべき国の分析
製造力(技術力)と営業力のバランス
ロ. 相違点
製品開発(権利取得)のコストが小さい。
営業(法的対応)のコストが小さい。
特許営業力の育成方法 国毎、目的毎の実務経験
営業部員(ライセンススタッフ)の数
NEC:3年後に100億円の技術収支目標(利益目標)に対して20人
海外進出(外国での権利取得)にかかるコストが小さい。
法則2: 販売額は相手の強さに比例する。
販売額: 国毎、大まかな技術分野毎の総販売額
相手との比較:相手毎、国毎に、
製品利益及び相手をカバーする権利を比較する。
例 典型的な例 日立 対 モトローラ
一般的には:
大企業×小企業 小企業が有利
企業×個人 個人が有利
ex. レメルソン(画像処理)、カーンズ(間欠ワイパー)、ジャンコイル
国内×外国 国内のみで販売している方が、米国では強い。
→ 小企業、個人、米国へ進出していない企業の特許に注意
(5)米国進出前に米国特許を取得し活用すべき
訴訟に強い企業ランキング(90年、日経産業新聞):
日立、IBM、日本電気、TI、ソニー、デュポン
→ 経験が大切
→ 被告としてではなく原告として経験を積む
5.特許出願の準備
(1)何が特許になるか
業界の特許出願に親しむ
ex.シティバンク:電子マネー特許 に続く米国特許が成立
「トラスティッド・エージェント・フォー・エレクトロニック・コマース」
(2)アイデアをまとめる
アイデアを提案する時期
仕様作成時 と 出荷前
出荷後:× 出荷前のみ:× 技術の完成時のみ:×
(3)特許部と力を合わせる
商品動向の検討
特許マーケットの検討
(4)発明報奨制度の最近の動向
ソニーの場合
武田薬品の場合
(5)外部の弁理士と効果的に協力するために何をすべきか
発明者から弁理士へ伝える情報
本発明の内容、新規な部分、置換技術、商品マーケット
特許部から弁理士へ伝える情報
特許マーケティング情報、特許の目的
特許事務所利用時の注意
ビジネスパートナーとなり得る特許事務所を選び/パートナーを育てる
6.図書紹介
技術者のための特許相談 松原 治 発明協会
国際特許摩擦と日本の選択 山川 政樹 東洋経済新報社
ソフトウエア特許実例 龍華 明裕 他 関東書院
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