特許の戦略的活用

2000.09.12
弁理士 龍華 明裕

目 次
 1.代表的な特許事件
 2.特許調査と設計変更
 3.権利化すべき発明
 4.特許マーケティング(コストから利益へ)
  (1)特許権の3つの目的(使い方)
  (2)特許マーケティングの方向を定める
  (3)商品マーケティングとの比較
 5.特許権出願の準備
 6.図書紹介

1.代表的な特許事件
 1-1 失敗事例
 (1)ミノルタ対ハネウエル事件
    ハネウエル: 以前カメラを製造していたが、訴訟当時は既に作っていない。
    陪審員裁判と演出
    賠償額: $1億3000万
    当初のハネウエルの姿勢とミノルタの対応
 (2)ポラロイド対コダック事件
    判決 損害賠償命令(賠償額 $8億7000万)+差し止め命令
    事業からの撤退
    製品の交換 推定損害額 $20億  
 (3)アップル対マイクロソフト
    著作権では 表現 が保護されるが、Look & Feel は保護されない。
    特許は取得されていなかった。
    権利化のための工夫を要するが、権利化は不可能ではない。

 1-2 特許による成功事例
 (1)トヨタ自動車  豊田佐吉さんの取得件数   119件  
            特に自動織機の特許
 (2)松下電器産業  松下幸之助さんの取得件数  約100件  
            2灯用ランプソケット、自転車用ランプ等
 (3)ソニー     井深 大さんの取得件数   103件   
            走るネオン
 (4)ホンダ     本田 宗一郎さんの取得件数 474件  
 (5)米IBMの技術収支  6億ドル/年
    米国で記録媒体特許の保護を認めさせ、日本、韓国へ波及
 (6)日立の技術収支    400億円/年
 (7)キャノン
 (8)TI
    キルビー特許:ライセンス料金800億円/年(新聞の推計)
 (9)日立対モトローラ事件
    モトローラが日立のCPU、H8およびH16に対して訴えたのに対して、
    日立はモトローラのCPU、68000を特許権侵害であるとして訴えた。
    双方共に侵害 → 68000の販売量の方が多かったためモトローラに不利
    → クロスライセンスに至った(実質的勝利)。

2.特許調査と設計変更
  失敗する可能性を下げ成功する可能性を高める
(1)2つの調査方法
    イ. 会社名による特許調査(相手が分かっているとき)と、
    ロ. 技術キーワードによる特許調査(相手を探す。既知の相手の特許をしぼる) 
(2)調査結果の開発者への回覧
      侵害するおそれがある場合の対応
    イ. 特許部へ連絡する。 米国:弁護士の鑑定を得る→3倍賠償を避ける。
    ロ. 設計変更
    ハ. 訴訟の準備 (無効資料/対抗特許出願)   
(3)特許の回覧による付随効果
    業界の動向を知る  何を開発 何を権利化 ← 会社名調査
    技術を習得する
    何が特許となるかを知る  添付資料:シティバンクの例

3.権利化すべき発明
(1)自社の技術
  法則1.技術の単純さは特許の価値に比例する。
   例1:使い捨てカメラ: 裏蓋部分。シャッター部分         
   例2:間欠ワイパー:  カーンズ氏 $2200万          
   例3:日清食品:    カップヌードル               
   ソフトウエア発明の留意事項
  イ. 見える部分を守る                
  ロ. 不変の部分を抽出する                    
    ex .ウインドウ表示の場合:
  ハ. 早い出願(特に米国)                        
  ニ. 提案書作成日の立証(ラボノートでなくても立証は可能)        
(2)製品(サービス)競合対策
   自社の技術を競合会社がどの様に利用するかを考察する。
(3)特許競合会社が必要とする技術
   訴えられた時の反撃&クロスライセンスのため(個人に対しては有効でない)
(4)製品競合会社と特許競合会社の相違点
   製品競合会社と特許競合会社でもある場合が多いが、
   製品競合会社のみが特許競合会社であるとは限らない。
   特許上は、むしろ小さい競合会社に注意する必要がある。

4.特許マーケティング(コストからプロフィットへ)
   日本は世界1の出願大国(60万件/年) cf.米国40万件/年
   商品としての特許権と、ビジネスとしての権利行使。

(1)特許権の3つの使い方(権利を得る目的)
   イ. 競合会社の排除
     自社利益が大きく、自社特許が強い   場合に適する
   ロ. 利益を上げる
     他社利益が大きく、自社特許が強い  場合に適する
   ハ. クロスライセンス
     自社利益が大きく、他社特許が強い部分と    
     他社利益が大きく、自社特許が強い部分がある  場合に適する
  目的は1つとは限らない。 特許請求の範囲(クレーム)は目的 & 相手ごとに作る。

(2)特許の取得方法は目的により異なる
   イ. 自社の製品を守ることを目的とする場合
     守る技術:自社が使う技術と、その置換技術 
     出願国 :自社が販売する国と、他社が製品を作る国 
     権利行使の代表例: 差止 
     従って特許の権利範囲が広いことが大切。
    cf.デッドコピーの防止権利範囲は狭くて良い。著作権も有効。 
     著作権侵害を証明するための工夫も大切
     交換部品用特許:必ずその構成が必要であれば、権利範囲は狭くても有効

   ロ. クロスライセンスを目的とする場合
      守る技術: 特許競合会社が使う可能性が高い技術と、その置換技術
             必ずしも自社が使う技術である必要はない       
      出願国 : 特許競合会社が製品を製造、使用、又は販売している国 
      権利評価方法:米国では 各特許のライセンス料  
      日本では 特許件数の場合も多い(差止を意識しているから)
           従って米国では 各特許のライセンス料が大切、
           日本では 件数も大切な場合が多い。
      日本の将来動向: 損害賠償引き上げ→ライセンス料Up→特許使用目的変化 
                → 従って今から出願の内容を変える必要がある     
        富士通    「有効特許」を分類
        リコー     経常利益の10%を特許収入に
        NEC     3年後の技術収支目標 100億円/年
        トヨタ自動車  今後は権利を正当に評価し、行使する。

   ハ. 利益を上げることを目的とする場合
      守る技術:他社が使う技術と、その置換技術
      出願国 :他社の利益が大きくライセンス料率が大きい国→米国
           米国における平均ライセンス料率 約10%
           米国における、特許権者に有利な2つの制度
           (1)Discovery    (2)陪審員制度  
        日米間の文化の相違(?)と、ゲームの理論
         → スピード違反や駐車違反が多いのはなぜか
         → 特許権も無視される場合が有る。

      権利行使の代表例:ライセンス(将来の実施)と 損害賠償(過去の実施)
     発明の金銭的価値:侵害前初期コスト価値、ロット価値
       ライセンス料:販売数 x 単価 x 料率(利益率等による)
       従って特許権はカバーする製品の販売総額が大きいことが大切。
        →より多く売れる製品、より高い製品、より利益率が高い製品
        例:CD-ROM 対 システム、  特定システム 対 汎用システム 

(3)特許マーケットの分析
   発明が対象とする製品と特許のマーケットを分析し、特許権の目的を明確にする。
   次に代表的な相手を想定する。 → 複数でも可。

 イ.a 競合会社を排除するための特許出願
 ロ.  利益を上げるための特許出願
 ハ.  クロスライセンスのための特許出願
 イ.b 防御
     有利な鑑定書を得ておく。 設計変更。
     相手の特許を無効とするための資料を集める。
     ライセンスを受ける(事業提携、権利を買う等を含む)。

  他社を、国毎、相手毎に図面にプロットする。
  自社を、国毎、大まかな技術分野毎に図面にプロットする。
    特許は、自社が相手をカバーする(であろう)権利と、
       他社が自社をカバーする(であろう)権利のみを対象とする。
    注意:自社の製品を守る発明は危険領域に対してあまり有効でない。
       → ハ又はイbの対応が必要。

(4)商品マーケティングとの比較
  イ. 共通点
    マーケットの大きさ、成長率の分析
    マーケットの利益率、将来利益率の予測
    自己マーケットにおける相手の強さの分析
    販売(権利取得)すべき国の分析
    製造力(技術力)と営業力のバランス
  ロ. 相違点
    製品開発(権利取得)のコストが小さい。
    営業(法的対応)のコストが小さい。
     特許営業力の育成方法 毎、目的毎の実務経験 
     営業部員(ライセンススタッフ)の数
     NEC:3年後に100億円の技術収支目標(利益目標)に対して20人 
    海外進出(外国での権利取得)にかかるコストが小さい。
    法則2: 販売額は相手の強さに比例する。
     販売額: 毎、大まかな技術分野毎の総販売額
     相手との比較:相手毎、毎に、
          製品利益及び相手をカバーする権利を比較する。
     例 典型的な例 日立 対 モトローラ 
       一般的には:   
         大企業×小企業 小企業が有利 
         企業×個人   個人が有利  
          ex. レメルソン(画像処理)、カーンズ(間欠ワイパー)、ジャンコイル
         国内×外国  国内のみで販売している方が、米国では強い。
         → 小企業、個人、米国へ進出していない企業の特許に注意

  (5)米国進出前に米国特許を取得し活用すべき
       訴訟に強い企業ランキング(90年、日経産業新聞):
       日立、IBM、日本電気、TI、ソニー、デュポン
         → 経験が大切
         → 被告としてではなく原告として経験を積む

5.特許出願の準備
 (1)何が特許になるか
     業界の特許出願に親しむ
     ex.シティバンク:電子マネー特許 に続く米国特許が成立
     「トラスティッド・エージェント・フォー・エレクトロニック・コマース」
 (2)アイデアをまとめる
     アイデアを提案する時期
      仕様作成時 と 出荷前 
      出荷後:×  出荷前のみ:×  技術の完成時のみ:×
 (3)特許部と力を合わせる
     商品動向の検討
     特許マーケットの検討
 (4)発明報奨制度の最近の動向
     ソニーの場合
     武田薬品の場合
 (5)外部の弁理士と効果的に協力するために何をすべきか
     発明者から弁理士へ伝える情報
      本発明の内容、新規な部分、置換技術、商品マーケット     
     特許部から弁理士へ伝える情報
      特許マーケティング情報、特許の目的             
     特許事務所利用時の注意
      ビジネスパートナーとなり得る特許事務所を選び/パートナーを育てる

6.図書紹介

技術者のための特許相談   松原 治    発明協会
国際特許摩擦と日本の選択  山川 政樹   東洋経済新報社
ソフトウエア特許実例    龍華 明裕 他 関東書院

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