Festo事件概要
(Festo Corporation v. Shoketsu Kinzoku Kogyo K.K. Ltd. & SMC Corp. and SMC Pneumatics, Inc.)

2001.01.15

Ⅰ.判決日:2000年11月29日

Ⅱ.特許侵害事件における均等論に関するCAFCの大法廷 (en banc) 判決

(法定助言者:J. Michael Jakes (Finnegan Henderson), William P. Atkins (Pillsbury, Madison & Sutro), Christopher A. Hughes (Morgan & Finnegan) ほか)

Ⅲ.訴因特許:USP 4,354,125 (Stoll) & B1 3,779,401 (Carroll)

Ⅳ.要部抜粋:

  1) 禁反言は、先行技術回避(102,103)目的の補正だけに限定されず、特許の法定要件に関する他のいかなる理由による補正に対しても、適用される。
  2) 禁反言適用は、特許庁の要求による補正か自発補正かは関係ない。

  3) 禁反言が適用されるクレーム要件においては、均等論で広がる範囲は存在しない。この場合、均等論は完全に禁止される (“complete bar”)。

  4) クレーム補正についての説明が確立されない場合、均等論の適用はない。

Ⅴ.訴訟手続きの流れ:
 FestoはStoll特許 (USP 4,354,125) およびCarroll特許 (USP B1 3,779,401) の特許権者であり、SMCを特許侵害を理由にマサチューセッツ州連邦地裁に提訴した。陪審は両特許が有効であり、SMCは均等論下でStoll特許および Carroll特許を侵害する、と評決した。SMCはこれを不服として上告した。高裁は地裁判決を破棄し、SMCの被疑製品を非侵害とした。主たる理由は、訴因特許クレームに対する均等論適用が否定されたためである。

Ⅵ.訴因特許の審査歴:

(技術分野)

 Stoll特許もCarroll特許もロッドレス磁気シリンダに関するものである。クレーム装置はシリンダ、シリンダ内を流体圧で移動するピストン、および該シリンダの外側に配設され該ピストンと磁力で係合しピストンの移動に追従するスリーブを有している。スリーブは物体を移動するために用いられる。

(Stoll特許出願審査略歴)

 ドイツ出願を優先権主張し、米国に1980年5月28日に出願された。記載不備の拒絶(112条)に対してクレーム1が補正された。その補正において、“複数のガイドリング手段および該ガイドリング外側のシールリング”および“円筒スリーブは磁化可能材料からなる”ことを追加限定した。さらに、対応ドイツ出願で挙がった先行技術DE 27 37 924, 19 82 379をIDSとして提出し、出願人は補正クレームはこの2件の先行技術とは異なると主張し、審査官はこれを認可した。

(Carroll特許出願審査歴)

 1972年2月17日に出願され、1973年12月18日に特許発行。1988年3月18日、ドイツ特許1,982,379を証拠として、出願人は再審査を請求した。該ドイツ特許には一対のシールリングを含むいくつかの共通する特徴が開示されていた。再審査において、出願人はクレーム1をキャンセルし、クレーム9を追加した。新規クレーム9では、“一対の弾性シールリング”が限定されていた。審査官はこのクレームを認可した。

Ⅶ.SMC被疑製品:

 SMCの被疑装置と訴因特許との差異は、(1)SMCの装置はピストンと2つの硬質プラスチックのガイドリングがあったものの、ピストンの一端に位置する1つの2方向シールリングしか有しておらず、一方特許クレームでは一対のシールリングが要件となっていたこと、および(2)SMC装置のスリーブの外部は、磁化されない物質であるアルミ合金製であったこと、の2点である。このうち(1)はStoll特許および Carroll特許のクレームに、(2)はStoll特許のクレームにそれぞれ関係する部分である。

Ⅷ.各訴因特許における論点の整理:
  Stoll (4,354,125) Carroll(B1 3,779,401)
技術分野 ロッドレス磁気シリンダ ←
補正により追加された特徴 (1) “plural guide ring means … and first sealing rings located axially outside said guide rings”
(2) ”a cylindrical sleeve made of a magnetizable material”
“a pair of resilient sealing rings situated near opposite axial ends of the central mounting member and engaging the cylinder to effect a fluid-tight seal therewith”
意見書での出願人の反論 2件のドイツ特許には、装置がチューブに沿って移動中にそのチューブ内部及び外部の不純物による干渉を防止する装置の使用が開示されていない
・補正クレームは、再審査請求で証拠として引用したドイツ特許を含む記録された先行技術と差別化させ、特許権者の発明の特徴をより明確にかつより特定的に定義する
・クレーム9の“内側のピストンおよび外側の本体の特定構造”は、かかるドイツ特許には教示も示唆もされていない

審査官の認可理由 (特になし) ・クレームされた関係であるところの複数のマグネット、エンド部材およびクッション部材は、先行技術には教示されていないしまた自明でもない
地裁でSpecial Masterの見解 特許有効
非侵害
特許有効
均等論下で侵害

地裁簡易判決 ――― 侵害
地裁の立場
・SMC被疑製品には磁化可能 (magnetizable)なスリーブがないので、文言上は非侵害。
・磁化可能という限定は不可解。審査官の記載不備の拒絶の何の関係もなく先行技術を回避するわけでもない。よって禁反言が均等論下での特許侵害を禁止するという裁定をしない。
・Stoll特許の審査中に特許権者が陳述した“ピストンのマグネット上の汚れを防止するために2つのシールリングが必要”としているが、これはCarroll特許で開示されたシールリングの意味と機能には関係がない。
・よって均等論下で侵害である。

陪審評決 ・特許有効
・クレーム1は均等論化で侵害

・被疑製品の非磁可スリーブは、特許クレームと機能、手法及び結果において同じである。
・特許有効

SMC(被告)の主張 ・Festoは“磁化可能”スリーブの追加補正は特許性に関係ないと言う証明をしていないので、均等論は適用されない。
・補正が自発的かどうかは禁反言適用において関係ない。

・Festoが補正した際、“非磁化可能”スリーブは権利放棄されていた。競合相手を含む公衆は、包袋を見てFestoはこれを放棄したと理解するのが妥当である。
・被疑製品は “single sealing ring” であり、クレーム9の要件である “pair of sealing rings” とは均等ではない。
・sealing ringは先行技術回避のために追加された限定であり、均等論は適用されない。

・競合相手を含む公衆は、包帯を見てFestoは出願時のクレームと補正クレームとの差異の要旨を放棄したと理解するのが妥当である。

CAFC判決 非侵害 非侵害

Ⅸ.大法廷で再審理された5つの確認項目(Q1-5)および回答(A1-5)

(確認事項)

Q1-あるクレームの補正に対して審査歴禁反言 (prosecution history estoppel) が適用されるか否かを判断する際に、Warner-Jenkinson v. Hilton Davis Chem. Co., 事件で述べられた“特許性に関する実質的な理由”というものが特許法102条あるいは103条下の先行技術を回避する場合の補正のみに限定されるのか? また、この“特許性”は特許発行に影響を与えた理由を意味するのか?

Q2-Warner-Jenkinson事件では、“自発的”な、すなわち審査官が要求したものではない、あるいは審査官による拒絶の応答としてされたものではない、クレーム補正に対して、審査歴禁反言が適用されるべきか?

Q3-もしあるクレーム補正に禁反言が適用されるなら、Warner-Jenkinson事件判決下で、かかる補正されたクレーム要件が均等論で広がるとすればその範囲はどの程度であるか?

Q4-クレーム補正の明確な説明が存在せず、Warner-Jenkinson事件下での禁反言適用の推定がされる場合、かかる補正されたクレーム要件が均等論で広がるとすればその範囲はどの程度であるか?

Q5-本件において侵害を認定した判決はWarner-Jenkinson事件における、均等論は“(結果として、クレームのある特定の)構成要件がまったく無視されてしまうようなほど広く解釈されるような”適用のし方は許されない、という要求を無視したことになるのか。換言すると、侵害の判決は、Warner-Jenkinson事件の後で、”all element rule” を破ったことになるのか?

(多数意見)

A1-先行技術回避だけに限定されず、特許の法定要件に関するいかなる理由も含まれる。Warner-Jenkinson事件では最高裁は先行技術回避のためのクレーム補正に焦点を当てた。しかし、有効な特許を発行させるためには多くの法定要件を満たさなければならない。102条の同一性、103条の自明性要件以外にも、101条の特許要件、112条第1パラグラフ、第2パラグラフの記載要件があり、特許庁はこれらの要件を満足していないその出願を拒絶する。また、一旦発行された特許の無効理由ともなる。よってこれらの法定要件に関係する補正はいずれも“特許性に関係する実質的な理由”によってなされた補正である。これはWarner-Jenkinson事件で最高裁は禁反言は先行技術回避目的の補正だけに限定されるとはしていないので、矛盾はない。もし出願人が、あるクレーム補正が特許性の観点からなされたものではないことを証明すれば、その補正には禁反言は適用されない。

A2-自発補正も他の補正と同じとして扱われる。よって、もしそのクレームの範囲を狭くする自発補正が法定要件に関する理由からなされたものであれば、禁反言が適用される。自発補正であろうと特許庁が要求した補正であろうと、その補正の要旨は放棄された (surrendered) されたという公衆への信号である。特許庁が特許性無しとして拒絶した補正には適用され、出願人が特許性がないと考えたがためになされた場合には適用されない、という理由はどこにもない。出願人が意見書で述べた自発的な反論に対しては禁反言が適用されてきている。このことと(自発補正への禁反言の適用とは)矛盾しない。また、Warner-Jenkinson事件とも矛盾しない。この事件の対象特許のクレーム補正のうち“pHが6.0-9.0”の下限値である6.0は先行技術回避のために必要とされたものではなく、出願人自らが自発的におこなった限定である。これについても禁反言が及ぶであろうとした最高裁の考えと矛盾していない。

A3-禁反言が適用されるクレーム要件においては、均等論で広がる範囲は存在しない。この場合、均等論は完全に禁止される (“complete bar”)。今までに、禁反言が適用されるクレーム要件の均等論の範囲についての疑問に対して、最高裁が判断を下したことはなかった。

 1)Warner-Jenkinson事件においても、pHの上限値である9.0が先行技術回避のためであることは確認されたが、最高裁はその均等論の範囲については論じなかった。唯一、説明のされなかった補正に関し、最高裁は“禁反言はその要件についての均等論の適用を禁止する”とは述べているだけである。つまり、補正により放棄された (surrendered) 要旨の限度(範囲)、すなわち依然として均等論が及ぶ確かな範囲というものがあるのかないのか、という問題は議論されることがなかった。

 2)よって当法廷(CAFC)が独自の判断を下す。議会は技術の発展と産業の革新を大目的として、特許の独自の問題に特化したCAFCを創設した。CAFC創設以前、ある地裁は禁反言を柔軟な禁止事項 (flexible bar) としてとらえてきた一方、別な地裁は完全なる放棄 (complete surrender) という厳しい基準で対処してきた。CAFCでは過去に柔軟な禁止を採用してきた。Black & Decker, Inc. v. Hoover Service Cinter事件 (Fed. Cir. 1989)で、当法廷は“その補正を引き起こした先行技術に類似の装置に関して均等論を適用しての侵害主張を禁じるものであり、禁反言は均等論のすべての適用を阻止するものではない”と理由付けした。他にもいくつかの判決で“禁反言により均等論の適用範囲は制限される”という路線を取ってきた。一方で、 Kinzenbaw v. Deere & Co., 事件 (Fed. Cir. 1984) では、対象特許の審査中に出願人はクレームを「ゲージ輪の半径はプランタの歯の半径よりも小さい」と追加限定することで狭く補正した。一方被疑製品のゲージ輪の半径はディスクよりも大きかった。当然文言上の侵害はない。このときCAFCの5人の判事は、“禁反言は特許権者が均等論に依拠することを禁ずる” と決定した。特許権者は上告理由において“その補正は先行技術回避に必要なかったもの”と主張していた。しかしCAFCは、“当法廷が、必要最小限の限定であったとしてもやはり審査官はその出願を認可したか否か、というような推測をするべきではない”とし、出願人自らのクレームを意図的に狭く補正したことをもって均等論の適用はできない、と判断した。

 Chisum教授は、「CAFCは均等論適用に厳しいstrict approachと補正は必ずしもすべての均等論を禁止するものではないとするflexible or spectrum approachの2つの流れを発展させてきた」、としている。厳格路線 (strict approach) の代表はKinzenbaw事件であり、一方柔軟路線 (flexible approach) の代表はHughes I事件である。生業としてCAFCの判決をコメントしているAmerican University Law Reviwは、「判例の互いに異なる2つの流れが特許裁判を不確実にしかつ混乱させている。CAFCが長年適用してきた禁反言の原則は、“審査中に実際に放棄した要旨を再度獲得することを禁ずる”」というものである。Warner-Jenkinson事件では限定補正した場合の均等論の適切な範囲の問題は議論されなかったので、CAFCのこの禁反言の原則に影響を与えるものではなかった。Chisum教授は、「1984年から1997年までのCAFCの判決のほとんどは、柔軟な適用 (flexible approach) であった」、としている。重要なことは、Hughes I路線が適用された場合であっても、放棄された範囲についての不確実さは残ってしまう、ということである。Chisum教授も、Sun Studs, Inc. v. ATA Equip. Leasing, Inc. およびEnvironmental Instruments, Inc. v. Sutron Corp. という2件の判例に依拠し、“柔軟路線がもつ予測困難性”について述べている。またCAFCでは、“補正の本質と目的によって、その限定の効果は莫大なものからゼロまでとなる”という観点を持ってきた。しかし、‘補正の本質と目的’と、‘限定の効果’との関係について述べられたものはほとんどない。

 3)今日再度この問題を論議することになった。当法廷は、特許性に関わる理由によって、ある補正がクレームの範囲を狭くした場合、禁反言は均等論の適用を完全に禁止 (complete bar) することとする。柔軟的適用を拒否する決定を下した理由は次の通りである。過去20年間、特許クレームの役目は非常に重要なものとなってきており、特許保護範囲の確実性の要求が高まってきた。柔軟適用では、現実問題としてどのような判決が出るか、その予測が不可能である。特許権者と侵害被疑者は当然異なる主張をする。このときに、審査歴禁反言がはたらいたときに放棄された (surrender) 範囲の確かな度合いを予測することは困難である。

 現状では、禁反言が適用された部分の均等論範囲に関する法は機能していない (“unworkable”)。特許法では、依拠されたときに一貫した結果が導出され、かつ市場に対してどのような行為ができるかについてのガイダンス役となるような法が、“機能する (“workable”) ”法律である。当法廷は、過去の長い経験から、柔軟的適用は機能発揮性の点で欠陥があった、とここに結論付ける。オリジナルクレームと補正クレームとの差異を出願人が認識しているということ、補正は出願人に対して厳格にかつ公衆に利益の観点から解釈されなければならないこと、補正自体が権利放棄 (disclaimer) の本質を持っていること、などから、特許性に関する補正により狭まったクレーム要件に対して均等論の範囲を一切与えられない。

 均等論の範囲は特許権者に対して権利放棄した範囲の不明確さという恩恵を与え、この恩恵は公衆がその対価を支払っているのである。完全なる禁止 (complete bar) は、特許権者と公衆の両方に対して、特許クレームの公示 (notice) および定義 (definition) の両方に対して機能するという点で最善のものである。

 Q4に対する答えにもなるが、補正の理由が説明されていようがいまいが、それが反駁されない限り、完全なる禁止は公衆及び特許権者に対して、クレーム発明の範囲についての定義を公示することになる。

 完全なる禁止は、補正によって放棄された発明主題がどこなのか、公衆が推測しなければならなかったという状態を脱却することにもなる。審査官の拒絶自体が不適切であったかどうか、またはその補正が重要なものであったかどうか、ということを推測するという審理はすべきではない。 complete barはこれを防ぐことができる。

 柔軟的禁止 (flexible bar) では、禁反言の確かな範囲をいうものは現実問題として確かめることはできない。もともとのクレームと補正クレームとの間で放棄された発明の要旨が何であるかを決定するための正確な物差しは存在しない。例として、オリジナルクレームでは“20以下”となっていて、先行技術が“15”を開示し、それを回避するためにクレームを“5以下”と補正したとする。この場合、柔軟的禁止を用いた場合どの発明要旨が放棄されたとすべきであろうか。“15”ではなく“5”の近傍なのだろうか? あるいは“15以下”ならどれでも入るのだろうか?“10”は再度権利範囲に含ませることができるのだろうか? はっきり言って、公衆も特許権者も、こんな単純な例であっても柔軟的禁止という観点に立つと、均等論下での確実なる範囲を決定することは不可能なのである。つまり公衆から、自分の権利がどこまでなのかということを想定する権利を剥奪されてしまい、常に侵害のリスクを負ってしまうのである。

 一方、完全なる禁止の場合には推測も不確かさも残らないので、公衆にも特許権者にも権利範囲の判断の助力となるのである。 complete barを採用すれば、特許権者も公衆も、権利範囲判断のために要していた訴訟費用を支払う必要性がなくなる。また公衆は、訴訟の脅威にさらされることなく自由に特許された技術の改良を行い、また侵害回避設計変更を行うことができるようになるであろう。この確実性あるいは予測可能性は、侵害のリスクを簡単に決定することができるので、改良及び侵害回避設計変更に対する投資を刺激する。

 一方柔軟的禁止主義は、これを超えるような恩恵は見出せない。確かに柔軟的禁止によれば特許権者には均等論に基づくより広い権利保護をもたらすかもしれない。しかし、それは不確実さに伴うコストを超えるものとは思われない。完全なる禁止は、均等論に妥当な制限を与え、かつ均等論と特許法との障害の危険性を取り払うものである。つまり、完全なる禁止は、均等論下での特許保護と公衆にとっての権利範囲の確実性との間の摩擦を低減するものである。

A4-クレーム補正についての理由説明が確立されない場合、均等論の適用はない。この問いは既にWarner-Jenkinson事件で答えがある。

A5-当法廷はこの問題に達する必要がない。後日その問題が持ちあがったときに明らかになるであろう。よって “all elements” ruleについては棚上げとする。

Ⅹ.判決文におけるCAFC判事の重要な見解

a)均等論と禁反言について/判断のプロセス:

・均等論下での侵害を論じる際、“禁反言”および“all element rule”という2つの法的制限が決定されなければならない。

・禁反言を決定するときには、どの構成要件 (claim elements) に均等が適用されるかを判断。このとき、審査中に補正されたか、あるいは意見書での出願人の陳述があるか、を見る。

・補正された構成要件の場合には、その補正によりクレームの文言上の範囲が狭まったかどうかを判断する。このとき、もし特許権者がかかる補正は特許性に無関係の目的でなされたことを証明できなければ、禁反言が適用され、その構成要件の均等論適用は禁止される。

・補正の理由を証明する際、特許権者は出願の公の記録、すなわち審査歴からのみその反論が依拠されなければならない。そうでなければ、特許記録の公示 (public notice) の機能が阻害されてしまう。審査歴の中に反論の理由がなければ、その理由は特許権者のみが知っているものとなってしまう。

b)All element rule:

・All element ruleにおいて、被疑製品において例え一つでもクレームの構成要件が存在しなければ、均等論は適用されない (Pennwalt Corp. v. Durand-Wayland, Inc.)。

・Stoll特許の侵害評決の際、”cylindrical sleeve made of a magnetizable material”と”first sealing rings located axially outside … [the] guide rings.”の2つの構成要件に対して均等論が適用された。両方とも審査中に追加された要件である。今回の判決でこの2つの要件に対しては均等論は適用されないので、all element ruleの問題について論じる必要はない。

c)補正による文言上のクレーム範囲:

・means + functionの要件は文言上対応する構造およびその均等物を包含する。一方、対応する構造を明記した要件は、文言上はその構造の均等物を包含しない。よって、means + function形式から対応構造形式への変更は、そのクレームの文言上の範囲を狭める補正である。

ⅩI.各判事の補足意見(参考)

(1)Plager判事:賛成意見

 同判事は、多数意見に賛成。ただし、本判決が次善の解決策 (second-best solution)であるとの見解。まず、同判事は均等論の判断基準が「非実質的な差異 (insubstantial difference)」という相当に漠然とした言葉であることを指摘。本Festo事件で当裁判所はこれを明確化しようとしたが、採用された結果はさらに問題を悪化させる可能性を含むものであると述べた。

 本事件の結果、出願人は出願時に、広いクレームよりもより狭いクレームを書いた方がよいこととなることを指摘。すなわち、出願時に広いクレームを書いたことにより審査官に拒絶されると、それを補正せざるをえず、その補正により禁反言が働き、均等論の適用が認められない。それに対し、出願時に狭いクレームであれば審査官の拒絶無しに特許される可能性が高く、均等論の適用が認めれられる。このこと自体は歓迎すべきことであると同判事は述べている。

 しかしながら、と同判事は続ける。そのことにより、特許侵害訴訟において、ますます文言上の侵害が争われることが少なくなり、均等論における侵害判断が争われることが多くなる。そして、均等論の判断基準は本件では争われておらず、依然として「非実質的な差異」であり、それの具体的基準としての「機能・手法・結果(function-way-result)」である。同判事は、従って、本判決は次善の解決策であると考えている。

 さらなる解決策のために、同判事は均等論の源泉が衡平法(equity)であり、衡平法上の原則に均等論も則るべきことを、判例を複数引用して指摘した。特に、均等論を認めるのは特許に対する侵害者の詐欺(fraud)を防ぐことにあるというGraver Tank事件を引用した。確かに、Warner Jenkinson事件において均等論の適否に侵害者の意図は考慮しないことが判示されたが、それの言うところは、伝統的な衡平法における考慮事項のうちの少なくと幾つかについて考慮しない、ということであると同判事は述べた。従って、同判事は、均等論の判断明確性と予測可能性を高めるために、CAFCが衡平法にもどって均等論を考え直す時期に来ている、と締めくくった。

(2)Lourie判事:賛成意見

 同判事は、主文に賛成。ただし、柔軟的禁止(flexible bar rule)について補足的なコメントをしている。

 まず、本事件の判事のほとんどがCAFCにおいて柔軟的禁止(flexible bar)の先例を積み重ねてきていることを指摘する反対意見に対し、それ自体は事実であると同判事は認めている。同判事は、ただし、本大法廷において機能していないルール(unworkable rule)を見直す機会が与えられたのであって、特許制度の趣旨から以前のルールを覆すこととしたのである、と述べた。

 同判事はさらに、本判決がWarner Jenkison事件と抵触しないと述べた。その上で、柔軟的禁止に対して産業界には確固たる期待があるとの意見に対し、その期待とは単に文言上の範囲外にも侵害があり得るということであって、その意味ではその期待が確固たるものでなくなることになる、と同判事は述べた。すなわち、出願中において均等論の適用を期待して発明の主題よりも狭い範囲をクレームする代理人がいるとすれば、それは間違ったアドバイスであり、非常にリスキーであることを指摘した。さらに、出願中に拒絶を受けた場合、出願人は自分の主張を維持するか、補正をするか、は自身の裁量で決められるのであり、補正をする行動をとったのであればそれは他に対して知られるのであり、かつ、出願人自身を拘束すべきである、と論じた。

 また、本判決は模倣者に侵害を逃れるためのフリーパスを与えるようなものだ、との反対意見について、そういうことも時としてはあるかもしれないが、本判決が採用したルールによって予測可能性が高まれば競合者は不正義のそしりや高額な訴訟無しに技術革新を図ることが出来るのである、と述べた。従って、発明者の利益を守りつつ、技術の発展を促進し、法的安定性をはかることもできる、と述べた。

(3)Michel判事:一部賛成、一部反対

 本判決におけるQ3について、主文とは反対意見。

 まず、多数意見の言う出願履歴禁反言の考え方は、もはや禁反言というのも困難であり、むしろ「補正による枷(bar by amendment)」とでも呼ばれるべきものである、とその反対意見を述べた。すなわち、本判決の採用したルールによれば、合理的な競合者が出願履歴を参照して出願人が何を断念したと考えるかという判断無しに、いったん補正がされてしまえばその補正の事実によって、均等論が働かなくなってしまう、と述べた。

 さらに同判事は、多数意見が最高裁判決を正しく理解していないこと、及び多数意見が見落している最高裁判決があること、を指摘した。その上で、同判事はWarner Jenkison事件が柔軟的禁止を判示していると論じた。一方、CAFCにおいても柔軟的禁止の判例の方が多数であることも指摘した。同判事は、ルールを変更するかどうかを決定する権原が本大法廷に与えられていることは認めているものの、多数意見が柔軟的禁止が誤っているとの根拠なしに完全的禁止を採用したことに反対を表明した。

 同判事は、多数意見のルールでは、現在権利行使可能な特許のほとんどすべてがその権利範囲を狭められることになるだろうと述べた。特に、柔軟的禁止のルールのもとにクレームを出願中に補正した特許は、これからは完全的禁止によってその保護範囲が制限されてしまう、と指摘した。

 従って、完全的禁止のルールの採用は、不当で予期せぬ結果をもたらすであろう、と同判事は結論づけた。

(4)Rader判事:一部賛成、一部反対

 均等論は発明後の技術への置換に対する特許権者への保護であるから、出願中に存在しない技術に対してそれを断念するということは有り得ないのだから、その点については均等論を認めるべきである、との意見を述べた。

(5)Newman判事:

 (抜粋):補正の理由が無いときに特許性の補正であるとの推定が働くが、その推定は反証可能なはずである。しかるに、多数意見においては出願履歴そのものから補正の理由が証明できなければ推定が覆らないことになっている。これでは実際には推定が覆る場合はほとんどないことになり、したがって、補正をしてしまえばほとんどすべての場合に出願履歴禁反言が働いてしまう。これは不合理である。

以上