合衆国連邦巡回控訴裁判所(CAFC) – 抜粋判例の概要

2000.12.15

米国CAFC 判決メモ

1. 特許法102条(b)における「on sale」の解釈

 特許性が喪失する、契約上の販売の申し込み(オファーフォーセール)とは?

特許出願の日より1年以上前に合衆国内で販売された発明については、合衆国において特許を受けることができない(特許法102条(b)項の”販売による特許性喪失の事由(オンセールバー)”)。ここで”販売された”とは明白な販売や販売の申し込みのことであり、かかる販売あるいは販売の申し込みの対象物は、特許性が喪失するクレーム発明を十分に特定しているものでなければならない。”販売の申し込み(オファーフォーセール)”は、被申し込み者が単に受諾することで拘束力のある契約が結ばれ得る申し込みを意味する。

グループワン対ホールマークカード事件 (Group One Ltd. V. Hallmark Cards, Inc., No. 00-1014: June 15, 2001) においてCAFCは、特許法102条(b)項のオンセールバーが適用される申し込みは、商業の世界で理解されているように、契約的観念における販売の申し込みでなければならない、とした。申し込み(オファー)は、統一商事法典(”UCC”Uniform Commercial Code)に基づいて解析され、意思の伝達あるいは一連の通知が商業的な販売の申し込みのレベルに達したかどうかが判断される。

本件において、地裁は当事者間のやりとりは販売の申し込みを構成しなかったと裁定した。当事者間の通知は価格や数量などの特定の条件が欠如しているため不明瞭であった。その意思伝達の本質は、正式な販売の申し込みというよりはむしろ予備的な提案あるいは交渉への誘いを示唆するものであった。

注:CAFCは、単なる宣伝および製品販売促進は申し込みへの誘いに過ぎないことを以前から述べてきた。このような販売に対する応答こそが、申し込みとなるのである。従って、誰が申し込みをした者か、何が明白なる申し込みを構成するのかについては、その提案自体の言葉を慎重に吟味する必要がある。法的な申し込みを示す言葉、例えば”私は申し込む (I offer)”や”私は約束する (I promise)”などは、”私は見積もる (I quote)”や”興味がありますか (are you interested)”といった予備的交渉を提示するだけの言葉とは相対比されなければならないのである。


2.REISSUE における取り戻し禁止ルール

審査中に放棄した権利範囲を再発行手続で取り戻すことはできない

米国の再発行手続は、日本の訂正審判と類似しており、特許が発行された後に誤記やクレームの範囲を訂正することができる。ただし日本と異なり、米国では特許法第251条に規定されている条件下で、再発行手続により原特許クレームの範囲を拡大することもできる。

ここで特許を得るために審査中に放棄した内容は、特許の再発行手続(reissue)によっても取り戻すことができない(”取り戻し禁止ルール”)。換言すると、訂正後のクレームは、審査中に放棄された内容を含まない必要がある。

パンヌ対ストーツインスツルメント事件 (Pannu v. Storz Instruments, Inc.,No. 00-1482 (July 25, 2001))において、特許権者は審査中に先行技術引例に対する応答としてクレームを補正した。再発行の手続き中、その特許権者は審査中に追加された限定要件を削除した。

再発行クレームを解析するに際し、まず初めに再発行クレームが原特許クレームよりも広いかどうか、そして広いとしたらどの点で広がったが判断される。次に、拡大された点が審査中に放棄された内容と関係しているかどうかが判断される。最後に、取り戻し禁止ルールを避けるべく再発行クレームが他の観点において実質的に狭くされているかどうかが決定される。

本件の場合、再発行クレームにおいては原特許クレームの限定要件が除去されていたので、再発行クレームはその点に関しては拡大されていた。除去された限定要件は、審査中に特許を得るために追加されたものであった。拡大された点とは関係していない点において再発行クレームは限定されていた。しかしこの限定は取り戻し禁止ルールを避けるべく再発行クレームを狭めるものではなかった。従ってCAFCは、合衆国特許Re 32,525号は特許法第251条の取り戻し禁止ルールに基づき無効であるとした(簡易判決を支持)。

注:引例と区別して認可を得るために広いクレームを補正したが、依然としてより広いクレームにも特許性があると信じている場合には、その出願人は先行技術に依拠する拒絶の回避努力を続けるべく「継続出願」をするべきであると。そうでなければ、認可クレームの範囲に関する誤りは再発行では訂正されないからである。


3.”侵害”という言葉は、特許法第287条(a)項に基づく通告書において必須でない

損害賠償の額は、特許権者が被疑侵害者に”侵害の通告”を行った後に生じた侵害による損害額に限定される(特許法第287条(a))。通告は、特許品に特許番号を付すことによる擬制的(constructive)なものでも良いし、被疑製品と被疑侵害行為を特定した上で、被疑侵害者に実際(actual)に警告を行っていても良い。

特許のクレームと製品を特定し、”特許を特許弁護士に見せてライセンスが必要かどうかを判断してもらう”という気持ちに受信者をさせる書簡は、法律問題として侵害の通告(警告)に十分である。

ガート対ロジテック事件 (Gart v. Logitech, Inc., No. 00-1088 (June 26, 2001) )において特許権者は、ロジテック社に、特許明細書を同封し、製品のいくつかについて実施権の許諾を受けることを検討させる内容の書簡を送付した。

地裁はその書簡は特許法287条(a)の通告として不十分であるとしたが、CAFCは地裁の判断を破棄して下記のように述べた。特許権者は特定の侵害を告発(charge)しなければならないが、特定の告発とは特許と被疑製品を特定したときに発生する。実施権の許諾を提案することは侵害の通知である。なぜなら、実施権を許諾するということは、それによって、その手紙を受けた者が裁判から逃れることを意図するからである。

注: 潜在的ライセンシーを脅すことを望まない特許権者は、特許法287条(a)を果たすために通常実施権を申し出ることができる。一方で通常実施権の申し出を受けた者は、それ以降の侵害行為により損害を賠償する責任が生じていることを理解しておく必要がある。