米国への出願時期について

2000.07.11
弁理士 龍華 明裕

1.概要
(1)米国での権利化が大切な発明は、早期に米国へ出願する必要があります。これにより特許される可能性と、他人の特許を排除できる可能性が高まるからです。

(2)米国での権利化が大切であるものの1年以内に明細書の記載を補充する可能性が大きい場合は、日本出願に代えて米国仮出願(Provisional Application)を最初の出願とすることが勧められます。米国特許を得ることのできる可能性が高まるからです。

2.詳細
(1)米国へ早期に出願する必要性について

 「米国出願」の1年前からその発明が公知であると出願が拒絶されますが(102条 (b))、この「米国出願」の日は実際に「米国へ出願した日、又は国際出願日」であり優先権は働きません(119条(a)後段)注。従って、米国への出願日又は国際出願日が早ければ刊行物等によって発明が拒絶される可能性は小さくなります。特許明細書には発明の実施形態の具体例が記載されていますが、「特許請求の範囲」には、具体例の上位の概念(広い概念)のみが記載されています。発明を「米国出願」する前に、上記の具体例としてのみ記載されている発明と同様な発明を他人が行った場合、その他人も自己の発明の特許を得ることができます(35USC102(e),他の必要条件も有)。

 本規定における「米国出願」の日も実際に米国へ出願した日であり、優先権は働きません (MPEP2136.03(a),In re Hilmer (Hilmer I),149USPQ480)。そこで他人による権利の取得を防ぐ必要がある場合は、早期に米国へ出願することをお勧めします。なお国際出願においては、米国国内への移行手続を行った日より前に行われた発明を排除することができないので注意が必要です(35USC102(e))。

(2)仮出願について

(a)1年後に明細書を書き直す可能性が大きく、また米国での権利化が大切な発明は、まず米国で仮出願を行うことをお勧めします。仮出願により上記の「米国出願」の日が確保されるからです。また仮出願には下記の利点があります。但し仮出願後には必ず本出願を行う必要があるので、1年後に必ずしも明細書を書き直さない場合には最初から通常の米国出願をすべきです。仮出願の利点:

 1) オフィシャルフィー(USPTO費用)が安い:
 ex.クレーム25個、独立クレーム3個、1$=100円の場合
 通常の出願:約10万円(審査料金を含むので高い)
 仮出願:  約2万円
 2) 権利の終了が1年遅くなる。
 権利期間は本出願の20年後に満了するので、本出願を遅らせることにより権利の終了が最大1年遅くなる。但し、権利の取得も遅れる。

3.その他、米国以外の国への出願
多くの発明者にとって、自分の発明が実際に出願されることには大きな意義があるので、出願後にその発明を更に考察する機会が増えます。
日本または米国に出願されていれば他の国では優先権の利益を得ることができるので、権利化を急ぐ場合を除いて、通常は他の国への出願を急ぐ必要はありません。優先権の有効期間(1年)の間に生まれた改良発明を最初の出願に入れ込んで他の国へ出願することにより、後に別出願をすることと比較すると出願コストを削減することができます。また、多様な実施形態を含めた上位概念のクレームを取りやすくなるので権利内容も強くなります。


注:
1996年1月1日以前は、日本での活動に基づいて発明日を証明することができなかった。このため優先権は、もっぱら発明日を繰り上げるために機能していた。
例えば、日本出願より少し前に米国で公開された他人の文献が有った場合、その公開日から1年以内に米国へ出願することにより、公知の文献があったことを理由とする拒絶(102条(b))は回避することができる。しかし公知であるという拒絶理由を回避しても、「他人の発明より後に行われた発明であること」を理由として出願が拒絶されていた(102条(a))。なぜならば、日本出願より前に公開された文献に記載された発明は、当然、日本出願より前に作られているからである。
現在は日本での発明日を立証することにより、「他人の発明より後に行われた発明であること」を理由とする拒絶(102条(a))を回避することができる(米国特許法 104条)。このため公知であることを理由とする拒絶(102条(b))が主要な問題となっている。米国への出願時期が早ければ公知であるという拒絶理由(102条(b))は回避できる。このため、米国出願の予定があれば、1年の期間を待つことなくできるだけ早く米国に出願することが望ましい。
なお日本での発明日を立証するためには、その準備が大切である。例えば研究開発日誌のみでなく、発明の提案書を作成した日、提案書を特許部又は特許事務所に送付した日、特許事務所が提案書を受領した日、提案書の内容、そして面談の日と内容を証明できるように準備することが大切である。