ヌクレオチド配列を含む特許出願の審査方針

1997.03.10

著者: パートナー  Paul White

 米国特許商標庁(PTO)は、1996年10月17日に、特許出願に含まれるヌクレオチド配列の数を制限する新しい通知を発行した。(1192オフィシャルガゼッティ68、1996年11月19日)。PTOは、一件の出願で最高10個までの独立した個別のヌクレオチド配列を認めることになる。

 ここ10年以上の間、PTOはヌクレオチドの分離DNAまたはRNAをクレームする特許出願を審査してきた。比較的最近核酸中の膨大な数のヌクレオチドを配列決定する自動化方法が使用されるようになったため、何千というヌクレオチド配列を記載し、しかも各配列が少なくとも数百のヌクレオチドを含むという特許出願が急増している。これに伴って出願を審査するPTOの負担も増大した。1996年4月16日および1996年4月23日に公聴会が開かれ、審査の負担とヌクレオチド配列の特許保護に関する一般問題も論じられた。上記通知はこの公聴会で出された意見に回答するものである。

 PTOは、ヌクレオチド配列は構造的に個別で互いに無関係な化合物であるタンパク質をコードしたものであるという事実に基づき、そのような配列は本来、米国特許法第121条の意味における独立した個別発明であると考えた。すなわち、各ヌクレオチド配列は、限定要件の対象となる独立した一つの発明を表わすという考えである。しかしPTOは、ひとつの特許出願に「合理的な数」すなわち最高10個までのヌクレオチド配列を記載することを認め、限定要求(restriction requirement)することなく審査すると決定した。更にまた、選択された配列と特許性の面で区別されない配列も審査される。同一のタンパク質をコードする複数のヌクレオチド配列は、それぞれ個別の発明とはみなされず、まとめて審査される。

 PTOは、特許協力条約(PCT)の発明の単一性の基準に基づくと、国際出願においては追加料金なしに最高10個までのヌクレオチド配列の国際調査および国際予備審査を受けることが出来ると判断した。米国特許法第371条に基づいて国内移行された出願も同様の扱いを受けることになる。PTOの方針によれば、一出願に含まれる独立した個別の複数のヌクレオチド配列は通常の基準とは異なり、一つまたは複数の同一(あるいは対応)の技術特徴を有することを要しない。従って、PCTの発明の単一性の要件とは一致しない。PTOは出願人に、追加料金無しに、同一(あるいは対応)の技術特徴を有さないヌクレオチド配列を最高10個までクレームすることを認めるとした。最初の10個の配列を越える場合は、各グループ毎に追加の調査費用および予備審査費用を払うと各グループにつき4個までの追加配列を認める。また、選択された配列と共通の技術特徴を有する組み合わせ配列に関するクレームも審査する。但し同一のタンパク質をコードする複数のヌクレオチド配列に関はまとめて審査する。

 PTOの通知は影響を受ける典型的なヌクレオチドクレームの例を挙げて分析しており、どのクレームが限定要求を受けどのクレームが限定要求を受けないかを例示している。例えば、次のクレームは限定要求を受ける。

(A)シーケンスID1~1000から選択される任意のDNA配列と少なくとも95%同一であるDNAを含む、分離精製されたDNAフラグメント。

 この場合は個々の配列が審査される。しかし配列の組み合わせをクレームしている場合は、いずれかの配列が許可可能であれば許可可能な配列を含むすべての組み合わせが許可される。次のクレームは限定要求を受けない。

 (B)シーケンスID1~1000を有するDNAフラグメントの組み合わせ。

 この場合、許可可能なヌクレオチド配列がひとつ見つかるまで、上記組み合わせを調査し、許可可能な配列がまったくなければ、審査官は配列の組み合わせ全体を考えたときに、クレームが許可可能であるかどうかを考慮する。また下記の例は、複数の個別のヌクレオチド配列の異なる組み合わせを含むので限定要求の対象となる。 (C)DNAフラグメントの組合せであり、前記組合せはシーケンスID1~1000から選択される少なくとも30の異なるDNAフラグメントを含む。

 この場合は限定要求により、審査を受ける組合わせをひとつだけ選択しなくてはならない。選択された組合せが10以下の配列を含む場合は組合せの全ての配列が調査される。選択された組合せが10を越える配列を含む場合は、例(B)の方法で審査が進められる。

 このPTOの方針は、ヌクレオチド配列をクレームする際の配列の絞り込みを必要とし、また複数の出願手続を最小にするので、出願人はクレームをより慎重に作成しなければならない。

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