ミーンズプラスファンクションとされないクレームの記載

1996.11.16

戻り止め機構(detent mechanism)はミーンズプラスファンクションに相当しないとCAFCが判断

著者: パートナー  Barry Grossman
    アソシエイト Christopher Murphy
訳者: 弁理士  龍華 明裕(Ryuka)

 「ミーンズプラスファンクション」形式で構成要件を記載した米国特許クレームの範囲は、特許明細書に開示された対応する構成、物質、または動作、およびそれらと均等なものに限定して解釈される(35USC(米国特許法)第112条第6パラグラフ)(注1)。そこで、旧来の「ミーンズプラスファンクション」形式(典型的には、means for …ing という表現形式*)とは異なる機能的クレーム表現を用いることにより、より広い権利範囲を得ようという試みがしばしば行われている。しかしながら特許関係者の間では、このように「ミーンズプラスファンクション」形式とは異なる形式を用いた場合であっても、機能的に表現したクレームはやはり第112条第6パラグラフによって限定的に解釈されるであろうという否定的な考えが強かった。

 これに対してCAFC(連邦巡回控訴裁判所)は、グリーンベルグ対エチコン判決(Greenberg v. Ethicon Endo-Surgery Inc., 39USPQ 2d1783, CAFC 1996年)において、旧来の「ミーンズプラスファンクション」とは異なる表現を用いたクレームの範囲の解釈に対して一筋の光を与えた。

 CAFCにおける控訴審の前に地方裁判所では、”a cooperating detent mechanism defining the conjoint rotation of [a pair of] shafts in predetermined intervals”という記載が「ミーンズプラスファンクション」であるとしていた。なぜならば、他にも理由はあるが、detent mechanism(戻止機構)という用語は、特定の構成を示すのではなく戻りを止める機能を実行する全ての構成を示していたからである。被告エチコンの戻止はクレームで述べられた「戻止機構」の機能を実行していたが、特許権の範囲が第112条第6パラグラフにより狭く解釈されたので、エチコンの装置は特許明細書に開示された戻止機構と均等ではないとされ、特許権侵害は認められなかった。

 控訴審でCAFCは、detent mechanism(戻り止め機構)という文言に地方裁判所が誤って第112条第6パラグラフを適用したとして地方裁判所の判決を破棄した。そして、特定の機構が機能的な名称を有するということのみでは、その名称を有するクレーム要素は第112条第6パラグラフの「ミーンズプラスファンクション」に該当しないと説明した。また、detent又はdetent mechanismがその構成が行う機能を定義しているか否かではなく、その用語がある構成の名称として当業界で十分に理解されるか否かが重要あると述べた。

CAFCは、detent means … for moving and maintaining [a] movable member (可動部材を移動および保持する戻り止め手段) と記載されたクレーム要素と、第112条第6パラグラフによって限定的に解釈したインタースピロ対フィギー事件(Interspiro USA Inc. v. Figgie International Inc. 815 F. Supp. 1488, D. Del. 1993年)(18 F.3d927, CAFC支持1994年)とを区別した。そして、インタースピロ事件におけるクレーム要素は典型的なミーンズプラスファンクション形式で記載されていたが、グリーンベルグ特許はそのような言葉を有していないと説明した。重要なのはCAFCが、第112条第6パラグラフが特定のクレーム要素に適用されるか否かを判断するためには、特許出願人の意図が重要な要素であると判示した点である。

「第112条第6パラグラフは、機能を実行するための手段としてクレーム要素を表現することができると規定している。このことは、ミーンズプラスファンクション形式を用いるという選択肢が特許出願人に与えられていることを示す。ここで問題は、特許権者が、多様なクレーム形式の中でその選択肢を選択したとして扱われなければならないのかどうかである。」

 インタースピロ事件におけるクレームは、旧来の「ミーンズプラスファンクション」の形式を用いていたので、第112条第6パラグラフに基づくクレーム表現を用いていたことが明らかであった。これに対してグリーンベルグの特許は、旧来の「ミーンズプラスファンクション」形式の文言を用いていなく、出願経過等も特許権者が「ミーンズプラスファンクション」形式を意図したことを示唆していない。

 但しCAFCは、”means”という単語を用いた場合のみに第112条第6パラグラフが適用されるとは述べていなく、他の場合にも第112条第6パラグラフが適用され得るという米国特許商標庁の見解(1162 O.G. 59 n.2, 1994年5月17日)には同意している。またCAFCは、”so that”で導入された機能的な言葉が”means for”というクレーム表現と均等であるとしたRaytheon Co. 対Roper Corp.判決(724 F.2d951, 957, 連邦裁判所1983年)を引用したが、それでもなお、第112条第6パラグラフは一般的に”means”という用語には適用されるが他のクレーム表現にも適用されるとは限らないと指摘した。

 CAFCは、どの様な場合に第112条第6パラグラフが適用されるかを判断するための特定の考察方法は述べなかったが、明細書および審査経過中のコメントに表われた出願人の意図が考慮されることは明らかである。ミーンズプラスファンクション形式およびそれ以外の形式のクレームは、いずれも適切な場合には有利に用いることができる。従って第112条第6パラグラフの適用を避けるためには、出願人はミーンズプラスファンクション形式を避け、またその意図を出願経過が明らかに表すように心掛けることが望ましい。

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