親会社・子会社のどちらで商標権を管理すべきか?
弁理士・米国弁護士 龍華 明裕
親会社で商標を出願し管理する方が良いのでは?と思われる方は多いのですが、それには子会社や関連会社への説明が大切です。商標権者は、商標を使用しまたはライセンスする権利と、それに伴う責任を有するので、どちらが権利と責任を持つべきかにより、どちらが商標を出願すべきかを、子会社や関連会社へ説明することができます。
●商標権を所有することによる責任
- 商標権者は以下の手続きを行う必要があります。
- ・商標登録の10年ごとの更新
- ・商標を使用していることの定期的な証明 米国やカンボジアなど
- ・不使用取り消し審判や、無効審判を請求された場合の対応
- ・他者の無断使用に対する対応(警告書の送付など)
- → 普通名称化により商標権を失うこと(例: エスカレーター、正露丸)を防止する。
- ・他者が類似する商標を出願した場合の対処(異議申立など)
- ・変更した商標の権利化
- 使用する商標が変形された場合に、変形された商標も権利化する方が安全です。
- 変形した商標に類似する商標が、登録商標と類似しないために登録される恐れがあるからです。
- ・商品役務の見直し
- 商標を新たな商品役務に使用する場合には、それらの商品役務についても出願をしておくべきです。
子会社にとって、これらの責任の負担が大き過ぎる場合には、親会社が商標を出願し管理することをお勧めいたします。グループ内の商標管理コストを削減するためにも、上記の責任を各社が持つより、一社に集中する方が有利です。
これらを管理するソフトウエアと、業務フローを導入して社内で教育をすることも大切なので、ご関心が御座いましたら、どうぞご相談ください。
●商標権を所有することによる権利
- ・ライセンスする権利
- 商標権者は、どの商品役務について、誰に商標を使用させるかを決めて、ライセンスする権利を有します。
- 親会社が関連する複数の子会社を持つ場合は、例えば、高級品のAシリーズを子会社Xに、汎用品のBシリーズを子会社Yに販売させるなどの事業計画を親会社が決める場合があります。そのような場合には、事業計画に沿って商標A,Bを使用させるべきなので、商標権も親会社が持つと事業を進めやすくなります。
- ・ブランド戦略
- ブランドを育てるためには、ブランド戦略に沿って商標を使用させる必要があります。例えば、Aシリーズの商品として、名称A+αと、A+βを異なる製品に付すことで、ブランドAを育てる場合があります。
- このように、商標の利用形態を定め、それに沿って各社に商標を利用させるためには、親会社が商標権を持つ必要があります。これにより親会社は、単に商標を持つだけでなく、各社のブランド戦略を担いやすくなります。
- ・類似する商標を権利化する権利
- 関連会社間で類似する商標を出願すると後願が拒絶されるので、先登録者が後願者へ登録を許諾するなどの対処が必要です。しかし親会社が全ての商標を出願すれば、類似する商標も権利化することができるので、ブランド戦略も推し進めやすくなります。
●親会社が商標を持つ場合の注意事項
- ・よく知られた商標を親会社に移転するときには、適切な対価または義務と共に合意されていなければ、財産が贈与されたとみなされて課税される恐れがありますので、税理士にご相談ください。
- ・銀行業、保険業など、事業許可が必要な役務についての商標を、事業許可を有さない親会社が出願する場合は、その必要性を特許庁に説明できる必要がありますのでご注意ください。
ご不明な点が御座いましたら、どうぞご連絡ください。