PCTから日本への移行のご提案

2023.12.04
弁理士・米国弁護士 龍華 明裕

PCT国内移行出願を権利化する

 日本出願に基づくPCT出願をした場合は、基礎出願ではなくPCTからの国内移行出願を権利化することをお勧めします。

1.明細書が充実している
 PCT出願時に特許請求の範囲を修正し、明細書に加筆する場合が多いので、基礎出願を権利化するより有利です。

2.審査請求期間と特許期間が延びる
 それぞれ国際出願日から3年、20年なので、これらの期間が約1年延びます。審査請求を1年遅らせると審査や登録も1年遅れるので、権利化費用や年金も先延ばしできます。

3.総費用が下がる場合が多い(例:請求項数15の場合)(費用は2022年3月現在)
 
 (1)基礎出願の審査請求庁費用    198,000円 (138,000+15×4,000円)
        弊所費用          10,000円(出願時に審査請求する場合)

 (2)日本語PCT出願からの移行+審査請求までの費用
        日本への移行の庁費用  14,000円
        審査請求の庁費用     119,000円(83,000+15×2,400円)
          弊所費用           60,000円(出願時に審査請求する場合)  
        (1)との差額:     -15,000円(国内移行を権利化する方が安価)

 期限近くに審査請求して2年で登録され,基礎出願日から15年経過するまで両特許を維持したと仮定すると,国内移行を権利化する方が143,400円安価(10年度年金:59,400+15×4,600円)


国際調査報告を考慮して補正する

 下記の理由で、国際調査報告の結果を踏まえて自発補正をすることをお勧めします。

1.拒絶理由が減る
・補正と同時に意見書に代わる上申書も提出すると拒絶理由通知が1回減ります。
・すると権利化が早まると共に、審判請求または権利放棄を減らすことができます。

2.広めの権利にチャレンジできる
・拒絶理由応答時には、拒絶査定を避けるべく慎重に補正する必要があります。しかし審査請求時にはその心配が無いので、少し広めの権利範囲にチャレンジできます。

3.コストダウン
・上申書提出を省略して補正書のみを提出することもできます。この場合は拒絶理由への応答と比較して費用が下がります。審判請求が減ることでもコストが下がります。

国際出願時には日本の指定や国内優先権を取り下げない

 下記の理由で、国際出願時には日本の指定や国内優先権の主張を取り下げずに、基礎出願および国際出願において委任状を提出/援用しないことをお勧めします。

1.基礎出願を維持する
 PCT出願時に委任状を提出/援用しないと、国内優先権が有効にならないので基礎出願を維持することができます。この場合でも国内移行時に委任状を提出/援用すれば、国内優先権が有効になります。

2.基礎出願から3年まで権利化を図れる
 日本へ国内移行しないと判断して30月徒過した後でも、基礎出願から3年(国内移行期限の半年後)まで権利化を図れます。弊所ではこれにより、数年に一度、案件を救っています。特に共願先の意思が変わった場合に救済できます。

3.意図せず期限徒過した場合は基礎出願の4年後まで救済をできる
 意図せず期限徒過した場合は、基礎出願の4年後まで審査請求期限徒過後の救済を得られます。特に共願先との意思疎通に齟齬があり、これにより意図せず期限を徒過した場合にも救済可能です。

例外:基礎出願の権利化をお勧めする場合

1.権利化を急ぐ場合
 権利化を急ぐべくPCT出願前に基礎出願を審査請求した場合は、PCT出願時に国内優先権の主張を取り下げることをお勧めします。取り下げなければ,PCT国内移行期限から3ヵ月経過するまで基礎出願の審査が保留されるからです。

2.PCTが英語出願の場合
 この場合は基礎出願を権利化する方が安価です。このためPCT英語出願における明細書への加筆内容が重要でなければ、基礎出願を権利化することをお勧めします。

以上

(費用は2023年12月現在)