先行技術文献情報開示要件について

2002.08.15

先行技術文献情報開示要件は、平成14年9月1日以降の出願に適用されます。

●今回の改正内容を簡単にまとめると、
① 出願人が知っている先行技術文献を明細書中に開示すること
② 先行技術文献が開示されていない場合は、審査官から開示を要求する通知(48条の7)を受け、それでも開示しない場合は、拒絶理由となる
③ 開示されていないことは、異議申立・無効の理由とはならない。
となります。

●先行技術文献情報開示要件を満たしていないと判断されるのは、
① 先行技術文献情報が記載されていない場合であって、その理由*1がまったく記載されていないとき
② 先行技術文献情報が記載されていない場合であって、その理由は記載されているものの、特許を受けようとする発明に関連のある文献公知発明を出願時に出願人が知っていた蓋然性が高いと認められるとき*2
③ 特許を受けようとする出願の明細書又は図面に従来技術が記載されている場合であって、当該従来技術に対応する先行技術文献情報が記載されておらず、その理由も記載されていないとき
④ 特許を受けようとする発明に関連のない先行技術文献情報のみが記載されている場合であって、特許を受けようとする発明に関連のある文献公知発明を出願時に出願人が知っていた蓋然性が高いと認められるとき*3
と発表されています。

●開示要件を満たしていないと判断されると、48条の7の通知が来ます。この通知に対する応答期間は30日(在外者は60日)となります。ただし、拒絶理 由通知と同時に行う場合は、60日(在外者は3ヶ月)となります。

●開示を要求している文献は、特許を受けようとする発明に関連する技術文献です。
関連するか否かは、①技術分野の関連性 ②課題の関連性 ③発明特定事項の関連性を勘案して判断します。

●この制度は、出願人に新たに先行技術調査を義務づけるものではなく、出願時に知っている文献の開示を要求している制度です。
「知っている」とは、
④ 出願人が研究開発や、出願時の調査などで得た発明 
⑤ 出願人が出願前に発表した論文などに記載された発明 
⑥ 出願人が出願した先行特許出願の明細書又は図面に記載された発明
をいいます。
出願人が法人の場合は、注意が必要です。上記規定により、その法人の名前で過去に行った行為については、「知っている」と考えられます。そのため、実際の 発明者とはまったく関係のない他の部署が行った過去の出願や、論文発表、先行技術調査も出願人の「知っている」発明となるのです。
このことから、知的財産部などにおいて、先行技術文献となりうるものを、特許出願についてだけではなく、プレスリリースや論文発表、行った先行技術調査に ついても一元的に管理していくことが望ましいと考えます。

なお、本制度の目的は、迅速な審査と、先行技術と特許を受けようとする発明の関係を的確に把握し、権利の安定化にも資することにあります。改正当初は制度 の浸透を図る目的で,基本的には48条の7の通知は行わず、他の拒絶理由がある場合に、先行技術開示要件も満たさないことを付記する方針でであると特許庁 は発表しています。

【参考】
新しく追加される条文は以下の通りです。
第36条第4項第2号
前項第三号の発明の詳細な説明の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。
一(略)
二その発明に関連する文献公知発明( 第二十九条第一項第三号に掲げる発明をいう。以下この号において同じ。)のうち、特許を受けようとする者が特許出願の時に知つているものがあるときは、そ の文献公知発明が記載された刊行物の名称その他のその文献公知発明に関する情報の所在を記載したものであること。

第48条の7
審査官は、特許出願が第三十六条第四項第二号に規定する要件を満たしていないと認めるときは、特許出願人に対し、その旨を通知し、相当の期間を指定して、意見書を提出する機会を与えることができる。

第49条第5号
審査官は、特許出願が次の各号のいずれかに該当するときは、その特許出願について拒絶をすべき旨の査定をしなければならない。
一~四(略)
五前条の規定による通知をした場合であつて、その特許出願が明細書についての補正又は意見書の提出によつてもなお第三十六条第四項第二号に規定する要件を満たすこととならないとき。
六~七(略)


*1 例えば、
出願人が知っている先行技術が文献公知発明に係るものでは無い場合は、その旨を記載することによって理由とすることが出来ます。

*2 具体的には、
先行技術文献情報が記載されておらず、その理由として出願人が知っている先行技術が文献公知発明に係るものではない旨が記載されているが、特許を受けよう とする発明と関連する技術分野においてその出願人による出願が多数公開されている場合
などが該当します。

*3 具体的には、
特許を受けようとする発明とより関連性の高い新しい文献公知発明が広く一般に知られているにもかかわらず、関連性が殆ど無い古い発明に関する先行技術文献情報が記載されている場合
などが該当します。