Alice Corp. Ltd. v. CLS Bank Corp.
(米国最高裁判所判決 2014年6月19日)

2014.06.27
弁理士・米国弁護士 龍華 明裕


米国最高裁判所は、抽象概念を対象とし特許適格性がないとして、満場一致でCLS Bankの特許を無効としました。

発明の内容
CLS Bankの特許(USP 5,970,479)の対象は、信頼できる第三者を使って当事者間の債務を決済することにより決済リスク(settlement risk)を排除する、コンピュータ化された債務取引プラットフォームです。注1)

特許適格性の判断ステップ
最高裁判所は、特許法第101条が特許の保護対象に自然法則、自然現象、および抽象概念が含まれないことを暗示するという基本ルールを繰り返しました。裁判所はMayo Collaborative事件最高裁判決(2012)で提示された分析にしたがい、下記(1), (2)の2点を問いました。

(1) クレーム対象の判断:問題のクレームが特許適格性のない概念を対象とするか
(2) クレーム要素の判断:クレームの構成要素が個別および記載された順番の組み合わせとして考慮された場合に、クレームの本質を特許適格性のある妥当な状態に変換するか

クレーム対象の判断
上記(1)について裁判所は、仲介者を通じて決済リスクを軽減する方法に関する本件クレームは、Bilski事件最高裁判決(2010)で無効とされた、リスクをヘッジする抽象概念の方法クレームと同じく特許適格性を有しない、と結論付けました。

本特許は仲介された決済のコンセプト、すなわち、第三者を利用した決済リスクの軽減を対象とする。仲介された決済のコンセプトは、商取引において長年にわたり普及している基本的な経済における日常行為である。第三者の仲介、および決済機関(clearing house)の使用は、現代経済に不可欠な要素でもある。したがって、ヘッジと同様に、仲介された決済は特許法第101条の範囲を超えた“abstract idea(抽象概念)”である。

当裁判所は、pre-existing fundamental truths(既存の基本的真実)のみが抽象概念として排除されるのは、という主張を退けました。

クレーム要素の判断
上記(2)について裁判所は、本特許が抽象概念を特許適格性のあるクレームに変換する発明思想を含まないと判示しました。単に汎用コンピュータを(クレーム中で)記述するだけでは、特許適格性のない抽象概念が特許適格性のある発明へ変換されません。

“apply it with a computer”と付け足して抽象概念を記載しても不十分である。一般に単に汎用コンピュータへ実装した発明のクレームは、抽象概念そのものを独占するクレームであり、そのような実装は追加的な特徴にならない。

システムクレームおよびコンピュータ読み取り可能な記録媒体クレーム
これらのクレームについて裁判所は下記の様に判断しました。

これらのクレームにも上記の判断ステップが当てはまる。“具体的なハードウェア”がクレームに記載されているが、そのハードウェアはほぼすべてのコンピュータが有する純粋に汎用的な部品で構成されている。クレームに記載されたどのハードウェアも、クレームされた方法と特定の技術環境との単なる結びつき、すなわちコンピュータを介した実施を超えて、意味のある限定をもたらすものではない。

システムクレームも本質的には方法クレームと異ならない。方法クレームには汎用コンピュータにより実施される抽象概念が記載されており、システムクレームにはその抽象概念を実施する汎用コンピュータの一部の部品が記載されている。特許適格性をクレーム起草者の技(手腕)だけに頼って判断し特許法第101条を解釈することに対し、最高裁判所は長らく警鐘を鳴らしてきた。

申立人のシステムクレームおよび記録媒体クレームはその根底にある抽象概念にいかなる実体も追加しないため、これらのクレームもまた、第101条により特許適格性を有しない。

同意意見

Sotomayor判事は、ビジネス方法を単に記載するいかなるクレームも、特許法第101条により特許適格性がある処理には該当しないとする意見を記し、当該意見にはGinsburg判事とBreyer判事も同意しました。

注1)方法クレーム(請求項33)

33. A method of exchanging obligations as between parties, each party holding a credit record and a debit record with an exchange institution, the credit records and debit records for exchange of predetermined obligations, the method comprising the steps of:

(a) creating a shadow credit record and a shadow debit record for each stakeholder party to be held independently by a supervisory institution from the exchange institutions;

(b) obtaining from each exchange institution a start-of-day balance for each shadow credit record and shadow debit record;

(c) for every transaction resulting in an exchange obligation, the supervisory institution adjusting each respective party’s shadow credit record or shadow debit record, allowing only these transactions that do not result in the value of the shadow debit record being less than the value of the shadow credit record at any time, each said adjustment taking place in chronological order; and

(d) at the end-of-day, the supervisory institution instructing ones of the exchange institutions to exchange credits or debits to the credit record and debit record of the respective parties in accordance with the adjustments of the said permitted transactions, the credits and debits being irrevocable, time invariant obligations placed on the exchange institutions.