日本および米国における新規性喪失の例外制度
日本および米国における新規性喪失の例外制度
2025年11月14日
弁理士・米国弁護士 龍華 明裕
1. 新規性喪失の例外制度の概要
特許または意匠が「新規性」を有するとは、出願前に公知になっていないことを意味します。
学会発表、展示会出展、インターネット上での掲載など、出願前に行われた公開行為は新規性喪失の原因となり、発明者/出願人自身の公開であっても原則として拒絶理由となります。
このような状況を救済するために設けられているのが「新規性喪失の例外」制度です。
この制度により、出願人自身の行為(またはその意思に基づく行為)により公開された場合でも、一定の要件を満たせば、その公開により新規性を喪失しなかったものとして扱い、特許性/登録可能性を確保することができます。
2. 日本における新規性喪失の例外
(1)要件
新規性喪失の例外を適用するためには、以下の要件を満たす必要があります。
- 特許を受ける権利又は意匠登録を受ける権利を有する者による公開であること
- 出願人が特許を受ける権利/意匠登録を受ける権利を有する者(またはその承継人)であること
- 公開から1年以内の出願であること
なお、パリ条約による優先権の主張を伴う出願の場合には、新規性を喪失した日から1年以内に日本へ出願されている必要があります。
(2)手続
新規性喪失の例外を適用するためには、次の手続を行う必要があります。
-
出願時の申出
願書に「新規性喪失の例外の規定の適用を受ける旨」を記載すること。 -
証明書類の提出
新規性喪失の例外の対象となる公開であることを証明する書面を、出願日から30日以内に提出すること。
国際出願の場合の手続時期は、以下のとおり異なります。
特許の場合
- 優先日から30か月を経過する日から30日以内、または
- 優先日から30か月以内に審査請求する場合は、審査請求日から30日以内
意匠の場合
- 国際公表があった日から原則30日以内。
(3)効果
提出された証明書に基づき、新規性喪失の例外の適用が認められた場合には、当該公開は特許性・登録可能性の判断において考慮されません。
(4)意匠登録出願の場合の留意点
意匠登録出願では、次の点に特に注意が必要です。
・対象は同一意匠に限られない
新規性を喪失した意匠と、次のような意匠についても例外の適用を受けることができます。
- 同一の意匠
- 類似する意匠
- その意匠に基づき容易に創作できる意匠
・複数回公開があった場合の取扱い
同一意匠が複数回公開された場合であっても、最初の公開について新規性喪失の例外の適用を受けていれば、当該公開に基づく2回目以降の公開についても、特許性・登録可能性の判断において考慮されません。
3. 米国における新規性喪失の例外(特許・意匠共通)
(1)制度の概要
米国では、グレースピリオド制度が導入されています。
出願人または発明者による公開、またはそれに起因する公開が、出願前1年以内のものであれば新規性喪失とはなりません。
この制度は、意匠出願にも適用されます。
(2)要件
米国における新規性喪失の例外(Grace Period)を受けるためには、以下の要件を満たす必要があります。
-
発明が公開された日から1年以内に、米国で出願したこと。
PCT出願の場合は国際出願日、パリ条約による優先権を主張する場合は、優先日が基準となります。 - 公開が発明者本人、または発明者から情報を得た者によるものであること。
(3)手続
米国では、出願時に特別な申請や証明資料の提出は不要です。
