Zoom判決:商標権侵害と差止請求棄却
【東京地裁、米Zoom社に約1億6600万円の支払いを命令】
日本の電子機器メーカーである(株)ズームが、ビデオ会議システム「Zoom」を提供する米国法人を相手に提起した商標権侵害訴訟において、東京地方裁判所は、約1億6600万円の損害賠償の支払いを命じました。
【注目すべき本判決のポイント】
損害賠償請求が認められた一方で、ロゴ使用の差し止め請求が棄却された点が重要です。
東京地裁は、新型コロナウイルス禍により「Zoom」の利用が急増する以前は、両社のロゴが混同されるおそれがあったと認定し、商標権侵害の成立を認めました。一方で2020年7月以降、コロナ禍を契機として「Zoom」が世界的に広く認知されるに至った結果、両社のロゴが混同されるおそれは認められなくなったと判断しました。
この判決は、侵害への対応が遅れる中で相手方ブランドの認知度が高まり、その結果として混同可能性の評価が変化し得ることを示します。すなわち、差し止めという将来の侵害防止を目的とする救済手段が、事後的に制限され得ることを意味します。
【なぜ商標権侵害を放置してはいけないのか】
本判決は、商標実務における重要な原則を改めて示しています。
① 「混同のおそれ」は時間とともに変化する
商標権侵害の成否は、消費者が両者を混同する「おそれ」の有無によって判断されます。しかし、この混同のおそれは時間の経過や市場環境の変化により変動し得るものです。本件のように相手方ブランドが急速に普及した場合には、「広く知られているがゆえに混同が生じにくい」という状況が生じることがあります。その結果、当初は侵害と評価され得た行為についても、後に侵害と評価されなくなる場合があります。
② 差し止め請求権の喪失リスク
損害賠償請求と差し止め請求は、その法的性質および機能が異なります。損害賠償が過去の損害の填補を目的とするのに対し、差し止めは将来に向けた侵害行為の防止を目的とするものです。ブランド保護の観点からは、継続的な侵害を防ぐ差し止め請求が重要です。本件は、状況の変化により、この差し止め請求の実効性が事実上制約され得ることを示した点で重要です。
【実務上のチェックポイント】
自社の商標が侵害されている可能性がある場合、以下の点を速やかに確認することが重要です。
・侵害の開始時期および自社の認識時期の記録
・警告書の発送履歴および交渉記録の保全
・市場における混同事例(問い合わせ・クレーム等)の収集
・相手方ブランドの認知度および普及状況の継続的モニタリング
商標権侵害に気づいた場合には、早期に専門家へ相談の上、適切かつ迅速な対応を講じることが重要です。
※ご注意
本稿は一般的な情報提供を目的とするものであり、個別具体的な案件についての法的助言を提供するものではありません。具体的なご案件は、弁護士・弁理士にお問合せください。
