日本における2021年~2026年6月の主要な特許訴訟及び制度動向
A.調査の範囲
本報告では、概ね2021年から2026年6月までに日本の裁判所が言い渡した特許関連判決のうち、特に以下に該当する事件を取り上げる。
● 特許権者の差止請求又は損害賠償請求が、少なくとも一部認められた事件
● 電気、情報通信、ソフトウェア、半導体製造装置又は機械分野の事件
● 外国法人又は外国企業グループが当事者となった事件
● 標準必須特許に関する事件
● 特許権の有効性又は無効理由について実務上重要な判断を示した事件
B.差止め又は損害賠償が認められた主要事件
1.Pantech対Google事件
● 原告: Pantech Corporation(韓国法人)
● 被告: グーグル合同会社(米国系企業)
● 判決日: 2025年6月23日
● 裁判所: 東京地方裁判所
● 救済: 対象製品の譲渡、譲渡の申出及び輸入の差止め
● 対象特許:第6401224号(LTE標準必須特許)
事案の概要
対象特許は、LTE通信において、基地局が送信するPHICH、すなわち物理ハイブリッド自動再送要求指示チャネルをOFDMシンボルにマッピングする技術に関するものである。
東京地方裁判所は、Googleスマートフォンの譲渡、譲渡の申出及び輸入を差し止めた。判決は、原告が1,000万円の担保を供託することを条件に仮執行を認めている。
FRANDに関する判断
本件特許についてはFRAND宣言がされていたため、標準必須特許に基づく差止請求が権利濫用に当たるかが問題となった。
裁判所は、被告側のライセンス交渉への対応等を検討し、被告をFRAND条件によるライセンスを受ける意思を有する誠実な実施者とは評価せず、差止請求を権利濫用とはしなかった。
実務上の意義
本判決は、日本においてFRAND宣言された標準必須特許に基づく差止めが認められた重要な公表事例である。
単に「FRAND条件でライセンスを受ける意思がある」と表明するだけでは足りず、次の事項を含む実際の交渉態度が評価されることを示している。
● ライセンス提案への適時の回答
● 秘密保持契約の締結への対応
● 売上げ等のライセンス料算定情報の提供
● 合理的な対案の提示
● 裁判所による和解案への対応
● ライセンス契約を現実に締結する意思
2.Pantech対ASUS事件
● 原告: Pantech Corporation(韓国法人)
● 被告: ASUS JAPAN株式会社(台湾ASUSグループ)
● 判決日: 2025年4月10日
● 裁判所: 東京地方裁判所
● 救済: FRAND実施料相当額の損害賠償
● 差止め・廃棄:棄却
● 対象特許:第4982653号、第5694479号 (LTE標準必須特許)
事案の概要
Pantechは、ASUS JAPANが輸入販売するROG Phone及びZenfone等のスマートフォンが、LTEにおけるPHICHマッピング技術に関する特許を侵害すると主張した。
原告は、対象製品の輸入、譲渡等の差止め及び廃棄に加え、損害賠償を請求した。
裁判所は、一部の特許について侵害を認め、FRAND条件によるライセンス料相当額の損害賠償を命じた。他方、差止め及び廃棄については認めなかった。FRAND実施料の算定
裁判所は、概ね次のようなトップダウン方式によって対象特許の実施料相当額を算定した。
1.対象製品の売上高を算定の出発点とする。
2.LTE又は5G規格全体の累積実施料率を設定する。
3.累積実施料をLTE規格の標準必須特許数で按分する。
4.対象特許の件数及び実施期間等を反映する。
判決では、LTE規格に関する累積実施料率及び標準必須特許数が具体的に検討されている。
実務上の意義
本判決は、日本の裁判所が標準必須特許についてFRAND実施料を具体的に算定した近時の重要事例である。
同じPantechのLTE標準必須特許に関する事件であっても、Google事件では差止めが認められ、ASUS事件では損害賠償のみが認められた。この相違は、実施者の交渉態度及びライセンスを受ける意思が差止めの可否に大きく影響することを示している。
国外サーバから日本国内へのプログラム配信
● 原告: 株式会社ドワンゴ
● 被告: FC2, Inc.(米国法人)ほか
● 判決日:2022年7月20日
● 裁判所:知財高裁
● 救済: 差止め及び損害賠償
事案の概要
ドワンゴは、動画上にユーザーのコメントを表示する際、コメント同士の重なりを制御するプログラム等に関する特許を保有していた。
FC2は、米国に設置されたサーバから、日本国内のユーザー端末にプログラムを送信していた。
争点は、プログラムの送信元サーバが日本国外に存在する場合でも、その送信を日本国内におけるプログラムの「提供」と評価できるかであった。
知財高裁は、送信元サーバの所在地だけでなく、一連の行為を全体として実質的に評価し、日本国内における提供に当たると判断して、差止め及び損害賠償を認めた。
実務上の意義
国外にサーバを設置することだけでは、日本特許権侵害を回避できないことが明確になった。
日本向けソフトウェア、SaaS及びクラウドサービスについては、次の事情が重要となる。
● プログラムの受信者が日本国内にいるか
● プログラムが日本国内の端末にインストールされるか
● プログラムの主要な機能が日本国内で利用されるか
● 発明の効果が日本国内で実現するか
● 日本市場を対象とするサービスであるか
国外サーバを含むネットワークシステムの「生産」
● 原告: 株式会社ドワンゴ
● 被告: FC2, Inc.(米国法人)ほか
● 知財高裁大合議判決日:2023年5月26日
● 最高裁判決日: 2025年3月3日
● 救済: 差止め及び損害賠償
事案の概要
本件では、動画コメント配信システムを構成するサーバが米国にあり、ユーザー端末が日本国内にあるという国境をまたぐシステムが問題となった。
知財高裁大合議は、システムの構成要件の一部が国外に存在する場合でも、一連の行為を全体としてみて、日本国内におけるシステムの「生産」と評価できる場合には、日本特許権侵害が成立すると判断した。
判断に当たり、次の事情が総合的に考慮された。
● システムの各構成要素の所在場所
● システムが完成するまでの行為が行われた場所
● システムの主要な機能が発揮される場所
● 発明の効果が現れる場所
● 日本の特許権者の経済的利益への影響
実務上の意義
本判決は、以下のような国際的な分散システムに大きな影響を与える。
● クラウドコンピューティング
● SaaS
● AI推論サービス
● IoTシステム
● 国外サーバと国内端末から構成されるシステム
● 複数国に処理機能が分散されたプラットフォーム
出願時には、システム全体のクレームだけでなく、国内に存在する構成要素又は一主体の行為で充足するクレームも用意することが望ましい。
半導体ウエハのレーザ加工技術
● 原告: 浜松ホトニクス株式会社
● 被告: 株式会社東京精密
● 第一審判決日:2022年12月15日
● 控訴審判決日:2024年4月24日
● 裁判所: 東京地方裁判所、知的財産高等裁判所
● 東京地方裁判所判決全文
事案の概要
浜松ホトニクスは、半導体ウエハの内部にレーザ光を集光して改質領域を形成し、その改質領域を起点としてウエハを分割する、いわゆるステルスダイシング技術に関する特許を保有していた。
東京精密は、ML200シリーズ及びML300シリーズ等のレーザダイシング装置を製造販売していた。
東京地方裁判所は、一部の装置について特許権侵害を認め、差止め、廃棄及び約15億697万円の損害賠償を命じた。
控訴審の判断
知財高裁は2024年4月24日、特許発明の製品全体への寄与度と、特許法102条に基づく損害賠償額の計算方法(特許権侵害者が得た利益を特許権者の遺失利益と推定する規定)を見直すことで、第一審判決の損害額部分を変更し、東京精密に対して8億3,191万6,753円及び遅延損害金の支払を命じた。
実務上の意義
本件は、次の点で重要である。
● 特許発明の製品全体への寄与度が詳細に検討されたこと
● 特許法102条に基づく損害額が控訴審で大幅に見直されたこ
6.椅子式マッサージ機事件
● 特許権者: 株式会社 フジ 医療 器
● 被告: ファミリーイナダ株式会社
● 控訴審判決日:2022年10月20日
● 裁判所: 知的財産高等裁判所大合議
● 救済: 3億9,154万9,273円及び遅延損害金
● 対象特許: 第4504690号、第4866978号
● 英語版判決資料
事案の概要
対象特許は、椅子式マッサージ機の肘掛部に設けられた前腕部施療機構等に関するものである。第一審は原告の請求を認めなかったが、知財高裁大合議は、一部の被告製品について特許権侵害を認め、約3億9,200万円の損害賠償を命じた。
損害額算定
特許権者が侵害者と競合する製品を販売していた場合には、特許法102条2項の適用の基礎となる損害の発生を認め得る。また同項により侵害者利益を遺失利益と推定することが、一部覆滅された場合であっても、その部分について、同条3項(実施料相当額)の損害賠償を追加的に請求できると判断した。
特に、特許権者自身の製品が販売されていなかった外国市場向けの輸出分についても、第三者にライセンスする可能性があったとして、実施料相当額が認められた。
実務上の意義
侵害製品が国外へ輸出され、特許権者の製品と直接競合しない部分がある場合でも、実施料相当額を請求できる。
7.LINE「ふるふる」事件
● 原告: 株式会社フューチャーアイ
● 被告: LINE株式会社
● 判決日: 2021年5月19日
● 裁判所: 東京地方裁判所
● 救済: 損害賠償の一部認容
● 対象サービス:LINEの「ふるふる」
事案の概要
LINEの「ふるふる」は、近接する複数のユーザーが端末を振ることによって、相互に友達登録を行う機能であった。
原告は、GPS等の位置情報を利用して近接するユーザー間の通信又は登録を実現する特許を保有し、「ふるふる」機能がその特許を侵害すると主張した。
東京地方裁判所は、対象特許の進歩性及び有効性を肯定し、「ふるふる」機能について特許権侵害及び損害の発生を認めた。
損害額算定
「ふるふる」機能は無償で提供されていたので、原告は、LINEサービスの中で「ふるふる」機能に関連する複数の収益を損害算定の基礎とすることを主張した。
裁判所は、QRコード又はID検索による友達登録、アカウント広告、LINE Out等の売上げについては、「ふるふる」機能との関係がないか、関係が間接的・遠隔的であるとして、損害算定の基礎から除外したが、「ふるふる」機能との関係のあるサービスについての損害賠償を認めた。
実務上の意義
無料のソフトウェア機能であっても、関連する広告収入、課金収入又はサービス収入との因果関係を立証できれば、損害賠償の対象になり得る。
一方、プラットフォーム全体の売上げを当然に損害算定の基礎とすることはできず、侵害機能が各収益にどの程度寄与したかを具体的に立証する必要がある。
C.重要な特許無効・有効性判断
1.浜松ホトニクスのレーザ加工装置特許に関する無効審決取消訴訟
● 原告: 株式会社東京精密
● 特許権者:浜松ホトニクス株式会社
● 判決日: 2022年11月29日
● 結論: 東京精密の審決取消請求を棄却
● 対象特許:第3867108号
概要
東京精密は、浜松ホトニクスのレーザ加工装置特許について無効審判を請求し、進歩性、明確性、サポート要件及び実施可能要件等を争った。
特許庁は、特許権者による特許の訂正を認めた上で無効審判請求を不成立とし、知財高裁もこの審決を維持した。
実務上の意義
日本では、特許権侵害訴訟に対する抗弁として無効が主張された場合であっても、並行して特許庁で特許権を減縮訂正し、それにより特許を有効に維持することができる。このため、必要に応じて侵害訴訟と訂正審判(または無効審判における訂正請求)によって先行技術との差異を明確にしながら、侵害製品を引き続き技術的範囲に含める戦略の重要性を示している。
2.サポート要件違反による権利行使制限
●特許権者:原田工業株式会社
●被告: 株式会社ヨコオ
●裁判所: 知的財産高等裁判所
●判決日: 2020年12月1日
●特許番号:第5237617号(アンテナ装置)
●請求内容:特許権侵害に基づく差止請求、侵害品廃棄請求及び損害賠償請求を棄却(第一審維持)
概要
知財高裁は、明細書に記載された実施例、試験結果及び技術的説明から、請求項に含まれる発明の範囲全体について課題を解決できると当業者が認識できるかを検討し、請求項はサポート要件を満たさず、無効理由を有するから、特許権の行使は認められないとした。
請求項の範囲が明細書の開示を超えて一般化されている場合には、特許法36条6項1号のサポート要件に違反し、特許無効と判断される可能性がある。
実務上の意義
特に次の発明では、クレーム範囲全体を裏付ける記載が重要となる。
● 数値限定発明
● パラメータ発明
● 材料発明
● 機能的に広く記載された発明
● 少数の実施例から広い上位概念を抽出した発明
明細書には、複数の実施例、比較例、数値範囲の根拠及び課題解決の技術的メカニズムを記載することが望ましい。
D.最近の法改正及び制度変更
1.特許権侵害訴訟における第三者意見募集制度
令和3年特許法改正により、特許権侵害訴訟における第三者意見募集制度が導入された。
裁判所は、必要があると認める場合、事件に関する法律上又は技術上の事項について、一般の第三者から意見を募集することができる。
ドワンゴ対FC2事件の知財高裁大合議審理では、この制度が初めて利用された。今後、以下のような社会的・産業的影響の大きい事件で利用される可能性がある。
● クラウド及びAI関連特許
● 標準必須特許
● 国境を越える特許侵害
● プラットフォーム関連発明
● 先端技術分野の特許
令和3年改正により、一定の手続期間を徒過した場合の権利回復要件が、従来の「正当な理由」から、原則として「故意でないこと」を基準とする制度へ緩和された。
対象となり得る手続には、次のものがある。
● 優先権主張を伴う出願
● PCT出願の国内移行
● 審査請求
● 特許料の納付
● その他一定の法定期間内に行うべき手続
もっとも、救済申請には期間制限及び回復手数料があり、すべての期限徒過が救済されるわけではない。
3.損害賠償額算定制度の定着
2019年特許法改正による損害賠償額算定規定は、2020年に施行された。最近の判決では、改正後の権利者保護を強化する考え方が定着しつつある。
(損害の額の推定等)
第百二条 特許権者又は専用実施権者が故意又は過失により自己の特許権又は専用実施権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為を組成した物を譲渡したときは、次の各号に掲げる額の合計額を、特許権者又は専用実施権者が受けた損害の額とすることができる。
一 特許権者又は専用実施権者がその侵害の行為がなければ販売することができた物の単位数量当たりの利益の額に、自己の特許権又は専用実施権を侵害した者が譲渡した物の数量(譲渡数量)のうち当該特許権者又は専用実施権者の実施の能力に応じた数量(実施相応数量)を超えない部分(その全部又は一部に相当する数量を当該特許権者又は専用実施権者が販売することができないとする事情があるときは、当該事情に相当する数量(特定数量)を控除した数量)を乗じて得た額
二 譲渡数量のうち実施相応数量を超える数量又は特定数量がある場合(特許権者又は専用実施権者が、当該特許権者の特許権についての専用実施権の設定若しくは通常実施権の許諾又は当該専用実施権者の専用実施権についての通常実施権の許諾をし得たと認められない場合を除く。)におけるこれらの数量に応じた当該特許権又は専用実施権に係る特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額
2 特許権者又は専用実施権者が故意又は過失により自己の特許権又は専用実施権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為により利益を受けているときは、その利益の額は、特許権者又は専用実施権者が受けた損害の額と推定する。
3 特許権者又は専用実施権者は、故意又は過失により自己の特許権又は専用実施権を侵害した者に対し、その特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額の金銭を、自己が受けた損害の額としてその賠償を請求することができる。
4 裁判所は、第一項第二号及び前項に規定する特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額を認定するに当たつては、特許権者又は専用実施権者が、自己の特許権又は専用実施権に係る特許発明の実施の対価について、当該特許権又は専用実施権の侵害があつたことを前提として当該特許権又は専用実施権を侵害した者との間で合意をするとしたならば、当該特許権者又は専用実施権者が得ることとなるその対価を考慮することができる。
5 第三項の規定は、同項に規定する金額を超える損害の賠償の請求を妨げない。この場合において、特許権又は専用実施権を侵害した者に故意又は重大な過失がなかつたときは、裁判所は、損害の賠償の額を定めるについて、これを参酌することができる。
4.審判手続のオンライン化
令和3年改正では、特許庁の審判手続における口頭審理について、当事者及び代理人がオンラインで参加できる制度的整備も行われた。
外国企業にとっては、日本へ渡航せずに口頭審理へ参加できる可能性が広がった点で実務上有益である。
E.最近の判決から読み取れる傾向
1.差止めは依然として重要な救済である
日本では、特許侵害及び特許の有効性が認められれば、原則として侵害行為の停止又は予防を請求できる。最近の事件でも、次の対象について差止めが命じられている。
● Googleのスマートフォン
● FC2の動画コメント配信サービス
● 国外サーバから日本国内に配信されるプログラム
● 国外サーバと国内端末から構成されるシステム
● 半導体ウエハのレーザ加工装置
2.外国企業に対する日本特許権の行使範囲が広がっている
Pantech対Google事件、Pantech対ASUS事件及びドワンゴ対FC2事件では、外国法人又は外国企業グループが直接関与している。製造拠点又はサーバが日本国外にあっても、次の事情があれば日本特許権侵害が成立する可能性がある。
● 製品が日本に輸入される
● 日本国内で販売又は販売の申出が行われる
● 日本国内の端末へプログラムが配信される
● 日本国内のユーザーによってシステムが形成される
● 発明の主要な機能又は効果が日本国内で実現する
● 日本市場を対象としてサービスが提供される
3.損害賠償額は高額化する可能性がある
近時の事件では、以下の損害賠償が認められている。
● 浜松ホトニクス対東京精密事件:控訴審で約8億3,200万円
● 椅子式マッサージ機事件:約3億9,200万円
● 標準必須特許事件:FRAND実施料相当額
● ソフトウェア事件:侵害機能に関連する収益を基礎とした損害額
日本では懲罰的損害賠償は認められないが、特許発明の技術的価値、侵害製品への寄与度、侵害者の利益及び合理的な実施料率等により、高額な損害賠償が認められる可能性がある。
4.標準必須特許でも差止めが認められる可能性がある
Pantech対Google事件は、FRAND宣言された標準必須特許であっても、実施者が誠実にライセンス交渉を行っていないと判断されれば、差止めが認められ得ることを示した。一方、Pantech対ASUS事件では、差止めは認められず、FRAND実施料相当額の損害賠償のみが認められた。
したがって、SEP事件では、対象特許の標準必須性だけでなく、ライセンス交渉の全経過が重要となる。
F.日本における特許出願戦略への示唆
1.ソフトウェア・クラウド分野
以下のカテゴリーを組み合わせてクレームを作成することが望ましい。
● システムクレーム
● サーバクレーム
● ユーザー端末クレーム
● プログラムクレーム
● 情報処理方法クレーム
● 記録媒体クレーム
国内の一構成要素だけで充足するサブコンビネーションクレーム
2.機械・半導体製造装置分野
以下のクレームを検討することが望ましい。
● 完成装置クレーム
● 主要モジュール及び部品クレーム
● 制御方法クレーム
● 製造方法クレーム
● 交換部品及び消耗品クレーム
● 間接侵害を想定した専用品クレーム
日本国内における製造又は輸出を捕捉できるクレーム
3.通信・標準関連分野
● 標準仕様とクレーム構成要件との対応を明確にする
● 標準文書により侵害を立証しやすいクレームを作成する
● 端末、基地局、方法及びプログラムの各カテゴリーを用意する
● 標準必須性及びFRAND宣言を適切に管理する
● ライセンス交渉の記録を詳細に保存する
● 侵害通知、クレームチャート及びライセンス提案を適時に提示する
4.明細書のサポート
広いクレームを維持するには、クレーム範囲全体について課題を解決できることを、出願時の明細書から当業者が理解できる必要がある。明細書には、次の事項をできる限り記載する。
● 発明の課題と各構成要件の関係
● 複数の実施例
● 比較例
● 数値範囲の根拠
● 技術的作用機序
● 代替可能な構造又は材料
● クレーム範囲全体に効果が及ぶ理由
