EPOによる国際調査と国際予備審査の活用

2021.10.25
弁理士・米国弁護士 龍華 明裕


欧州特許庁(EPO)へ出願する予定の場合は、国際段階で、
EPOの(補充)調査と(予備)審査を受けることをお勧め致します

 
JPO国際調査v. EPO国際調査1

EPOの国際調査(a)はJPOの国際調査より高額です。しかしEPOで国際調査をするとEPO移行後に補充調査が行われないので、その庁費用(b)とそれに応答する現地費用(c)がかかりません3。更に権利化が約1年早まるので出願維持年金も下がります(d) 4。EPO移行時には国際調査報告への応答書類を弊所で完成して提出させられるので合計費用が下がります(e)5

JPOで国際調査した場合でも、国際段階で優先日から22月までにEPOに追加の国際調査(補充国際調査)を請求できます。この場合も同様に、欧州で権利化するまでの費用が下がります。事前に文献を発見することで米国のIDS回数も減るので(f)、合計費用は更に下がります(g)。

EPO国際予備審査(EPOで国際調査をした場合のみ可)
EPOで国際調査し、EPO移行時に補正をしてもなおEPOから拒絶理由を受ける可能性が大きい場合は、EPOへ国際予備審査を請求して審査を進めておくと権利化費用が更に下がります。

(1)庁費用の削減
EPO国際予備審査は高額ですが(a)、これを受けるとEPO移行後の審査費用が1/2になります(b)。

(2)欧州移行後の影響
国際予備審査請求と同時に、国際調査の結果に鑑みた補正書の提出が可能です。
すると、EPOから審査の見解書(拒絶理由通知に相当)が得られます。これに対し、出願人は更に意見書/補正書を提出し、電話面談も申請をできます。これらの結果として国際段階で肯定的な報告書(予備審査報告書)が得られれば、EPO移行後にほとんど拒絶理由を受けません。EPO移行後には、国際予備審査を担当した審査官が、そのまま審査を継続するからです。

欧州の代理人は1回の拒絶応答で20~35万円もの費用を請求しますので、欧州移行後の拒絶応答が減ることで合計費用が下がります7(e)。更に権利化が約1年早まるので出願維持年金も更に下がります8(d)。

他国審査への影響
EPOで発見された先行技術を考慮して補正すると、他国でも拒絶理由が減り権利化費用が下がるのみでなく無効になりにくい特許が得られます。これは特許訂正が困難な米国と中国で重要です。国内移行前に、日本出願の審査も進めておき、その結果も考慮すると、効果は一層高まります。

ドイツ移行等に変更できる
EPOの補正制限は厳格です。しかしEPOの審査を進めておくと、EPOで認められない補正が必要と分かった場合にEPOへの移行を中止し、又はドイツ移行等へ変更することができます。

パリ経由との費用比較(相違点のみ対比)
国際段階でEPOから進歩性欠如の報告を2回受け、それらに鑑みて国際段階で補正し、これにより他の国でも移行後の拒絶理由が計2回減るとします。拒絶理由対応およびIDS提出の代理人費用を薄緑の様に想定すると、PCT経由の権利化費用総額は、パリ経由の総額より下がります。

但し、権利化を遅らせることにより分割シフト補正の可能性を維持したい場合、上記の方法は妥当でありません。ご不明な点がございましたら、どうぞお気軽にご連絡ください。

以上

1 1€=132円(2021年10月25日現在)で計算し、1万円以下を四捨五入
2 請求項15項で、中小企業等または研究機関の割引を受けない場合
3 EPO代理人費用は、弊所がEPO応答書類を完成し、弊所の提携先に依頼した場合の参考額です。
4 登録後の各国年金が早まりますが、額は小さく(6年次で独€130、英£90、仏€76)、権利期間が長くなるメリットもあるので、
 この額を考慮していません。欧州移行を早めることでも、同じ効果を得られます。
5 現地代理人との契約等により異なります。日本事務所の業務を減らして現地業務を増やすと合計額が増えます。
6 €1,830 + €185 Handling Fee
7 EPOに2回の応答を行うと想定すると、費用の削減効果が更に大きくなります。
8 EPOへ早期に移行して早期審査(PACE)を請求しても、ある程度は類似する効果が得られます。
9 送付手数料を含む